ひとつ、静かな音がした。
柔らかく、温かく、
涙がゆっくりと地に落ちるような、
そんな微かな音。
「ただいま、隊長」
そう言った彼女は涙なんか流していないけれど、傷だらけで痛ましい。
なのに微笑む、
その優しい笑顔が、
聞き慣れた声が、
温かさに溢れて俺を包む。
お前が在る、
在てくれなきゃ、困る。
それだけでいいんだ。
細い指先が俺に触れる。
ひとつ、ふたつ、音がする。
ああ、
泣いていたのは俺の方。
「遅ぇよ馬鹿野郎」
確かめるように抱き寄せる。
此処に在るということ、
そばに在るということ、
何よりも大切で、
愛おしいこの存在を。
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