終わらない夢を紡ぐキミに
□動き出した運命-destiny- by 中西京介
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動き出した運命-destiny-
街の木々がその枝を伸ばし、青々とした葉を携えているのが会議室の窓から見える。
空はまもなく梅雨入りしそうな色が広がり、風はほんの少しだけ雨の匂いを運んでくる。
―――年中無休と言っても過言ではないオレたち。
これからくるサマー・シーズンはクリスマス・シーズンと同じく、何かと引っ張り出されることが多い。
夏は特別イベントが目白押しで、デビューしてからずっと頑張ってきた甲斐があったのか、ここ数年、夏フェスや25時間番組などの大きな仕事から外されることはない。
その他にも夏をテーマにした新譜アルバムの製作。
そんな過密スケジュールが始まろうとしていた、ある日。
「沖縄で仕事…?」
「ああ」
「また随分と急に決まったな」
次の仕事に全員で局入りするために事務所に集まったときに一磨から聞かされた。
新譜アルバムの初回予約特典として急遽付けることになったPVの撮影のために、突然、10日後に南の島国・沖縄に行くことになったという。
「やったー!
で、一磨、どれくらい行けるんだよ?」
「3日間。そのあとはみんな仕事が詰まってるからな。
あ、撮影の前日は全員オフになるから、上手くいけば4日か」
「それにしてもよく調整ついたねー?
ホントのところ、PVつけること、前もって決まってたことだったりして?」
「かもしれないな」
「確かに都合よすぎだが……本を読む時間さえあれば何だっていい」
メンバーはわずか数日でも都会からしばらく離れることに心浮だっている。
その気持ちが心を緩ませたのか、翔は、何年も前に新人アイドルと共演したPV撮影のことを思い出したらしく、何気なく呟いた。
「南の島でのPV撮影かぁ、懐かしいなー。
………『彼女』、どうしてんのかな……」
「…! 翔っ!!」
「……あ。
悪い、一磨……」
いまは一磨の前ではその『彼女』のコトに触れないことがメンバーの間では暗黙の了解となっていた。
だから、亮太が翔を諌めたのだ。
申し訳なさそうに謝る翔に一磨は苦笑する。
その次の瞬間に浮かべた寂しげな微笑……。
オレはそんな二人を……いや、メンバーを複雑な思いで見ていた。