終わらない夢を紡ぐキミに

□宵待ち月の別れ by 本多一磨
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終わらない夢を紡ぐキミに
〜宵待ち月の別れ〜
by 本多一磨






レコーディングを終えたあと、神堂さんはそのまま最終チェックに入った。

そして、



「とてもいい音が出来た。 ……海尋、ありがとう」



と、神堂さんは海尋に向かってスッと手を差し出した。

海尋も嬉しそうに微笑みながら神堂さんと握手を交わそうとした―――が…。

その体が傾いたかと思うと、手が宙を舞い……海尋は崩れるようにしてその場に倒れた。



「海尋!」



3人の声が一斉に彼女の名前を呼ぶ。

その中でいち早く彼女の体を支えたのは―――京介。



「海尋……!? 海尋…っ!!」



京介は顔を真っ青にして彼女の名を呼ぶ。



「……京、介…くん…」

「海尋っ…!」

「…また、そんな、心配そうな、顔をする………。 大丈、夫…だから……ね?」



浅く荒い息をしながらも海尋は微笑む。

京介を安心させるように。

―――その場所にいるのはオレだったはずなのに。

心の中で瞬間的に黒い感情が芽生える。

だけど、それをなんとか封印して、夏輝さんに言った。



「夏輝さん、救護室みたいなのってありましたよね?」

「あ、ああ、確か奥に…。

 医者は常駐していないから、鍵がかかってるかもしれないね。 受付スタッフに…」



そう言って出て行こうとする夏輝さんを呼び止めた。



「あ、いいです、オレが行きます。

 京介、とりあえず救護室のベッドに寝かせよう」

「海尋……」

「京介!」



茫然と海尋をただ抱きしめているだけの京介に声をかけて、オレは受付スタッフのもとへ走った。

鍵を借りて元来た廊下を戻り、救護室を開ける。

それから部屋中の窓を開けて換気をし、海尋を寝かせられるように準備をする。

しばらくして、夏輝さんと義人に連れ添われて、京介が海尋を抱いて入ってきた。



「京介、海尋に薬は飲ませられるんだっけ?」

「あ……えっと…この前に薬を飲んでから6時間経ってたら………」

「飲ませても大丈夫なんだな? じゃあ、これ、水。 少しでも早く楽にしてやらないと」

「あ、ああ…」



海尋が持っていたバッグとペットボトルの水を渡すと、京介は苦しそうに息をする海尋の上半身を抱き起こして薬を飲ませた。



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