Hazardous Material
□Prologe / Dirty Idol
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オレは目の前の現実に茫然とするしかなかった。
彼女の泣き声が嗚咽に変わっているのに気づいたとき、自分でもわかるほど震える声で彼女に声をかける。
「この後……マネージャーさん、迎えに来るの?」
彼女は無言で首を横に振った。
「……家まで送っていくから…着替えてて」
それだけ言ってオレは彼女の控え室を出て行き、ふらつく足取りで自分の控え室に戻る。
その途中で込み上げる吐き気。
こんなに近くで、彼女の尊厳を壊す、力でねじ伏せる凌辱行為が行われていたという事実に。
しかも、二人がかりで……おそらく、これまでに何度も。
いまさっきまで、男の征服欲からくるこの行為について頭ごなしに否定するつもりはなかった。
歪んだ人間の歪んだ行為だとしか思わなかった。
つまり他人事だったのだ。
けれど、実際に自分の近くで、しかも、好意的に思っている女の子が被害に遭っているのを知ると、その卑怯さに吐き気がする―――。
ようやくの体で戻った自分の控え室の扉を開けた途端、翔の不機嫌な声が聞こえてきた。
「あっ、亮太っ! どこに行ってたんだよ!」
その声に耳も貸さず、自分のカバンを掴むとすぐに一磨に言った。
「今日はもう…終わりだよね? ……海尋ちゃんを…送ってくる…」
「亮太、ずりぃぞ! オレも送っていきたい!」
あの現場を見た直後だからか、翔のその能天気な言い方に苛立ちを覚えたオレは、
「……今日はオレ一人でいい!!」
と怒鳴ってしまっていた。
オレの気迫に押されたのか、翔は唇を尖らせながらも口を噤む。
一磨はオレの様子に何かを感じたのか、いっさい他のことは何も言わず、
「……気をつけて、な」
とだけ言った。
その言葉が遠くに聞こえるほど茫然としていたオレは再び彼女の控え室に戻り、彼女を連れて局を出た―――。