Hazardous Material
□Hysteria / Counterfeit Lovers
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Hysteria -狂気-
震え続ける彼女を助手席に乗せ、オレの運転する車は街の中を走り抜ける。
車内には痛いほどの沈黙しかない。
―――ずっと不思議だった。
この2,3ヶ月の間、N局での海尋ちゃんの控え室がいつもあの場所―――誰も通らないような場所―――になっていたことが。
それについてはウチのメンバーも首をかしげていたのだ。
その理由がこのコトだったとは―――。
彼女の知名度はうなぎ登りで視聴率もそれなりに取れてたし、もっとスタジオに近い所でもいいんじゃないかと思っていた。
「……あまりにも誰も通らないような場所だったからマネージャーも訝しがって、スタッフにも聞いてくれてたの…。
でも、局のスタッフさんたちは、他の場所は○○プロが後から使うからって言って……。
そうしたら、マネージャーが誰も来られない日に突然…!!」
そう言って助手席の彼女が自分自身をかき抱くように身を屈めて嗚咽する。
―――つまり、あの二人組は自分の事務所の力で彼女の控え室をあの場所に指定し、彼女が一人で来た日にあの部屋で―――。
だけど、こんな状況になるまで誰にも言わなかった彼女が少し腹立たしかった。
だからつい、彼女を責める言葉を言ってしまっていた。
「なんで黙ってたの? 山田さんに言わなきゃなんないことじゃん!」
「言えなかったのよ…!
デビュー出来て、練習も一生懸命頑張ったわ!
そしたらテレビに出られるようになって、社長も事務所のみんなも喜んでくれて……!」
「でも…! 誰かに相談することだって出来たはずじゃん!」
「誰に相談しろって言うの!?
翔くん? 神堂さん? モモちゃん?
こんなこと、誰にも言えないじゃない……!!」
『誰かに相談すればよかったのに』と言ってしまった直後、自分に自己嫌悪を覚えていた。
わずか20歳そこそこの女の子が、あの恐ろしい現実をいったい誰に言えるのだろう―――。
「……誰にも知られたくなかった…。
―――特に、亮太くんには」
「え……?」
彼女の発した言葉がオレの名前だったことに心臓が止まるかと思うほど驚き、交通量の少なくなった場所で車を止めて彼女を見る。
海尋ちゃんは瞳に涙を溜めてオレを凝視する。
次の瞬間、彼女の瞳に陰が宿った。
「ね…ぇ……亮太くん……抱い…て…」
一瞬、何を言っているのか分からなくて、俄かに信じるコトが出来ないその言葉にオレは目を見張り、彼女を見返した。
「何、言って……」
「抱いて忘れさせて……!
遊びでもいいから……ねぇ、お願い……!!
亮太くん……! お願い……」
震える両手でオレの腕を掴み、狂気をはらんだ瞳から幾筋もの涙を流しながら必死に懇願する彼女―――。
弱り切ってるところに付け入るコトは最低なコトだとわかっていたけれど、彼女のその願いを振り払えるほどオレは大人じゃなかった―――。