Hazardous Material
□Hysteria / Counterfeit Lovers
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灯を落とした部屋の中で―――荒くなった息を整え終えて、ベッドで裸のまま抱き合っていた。
二人で愛し合っている最中には耳に入らなかった波の音がかすかに聞こえる。
そのときにふと呟かれた彼女の言葉。
「亮太くん……今日のこと……忘れて…?」
「え…? ……何…を…?」
彼女の背中に回していた腕をほどいて顔を覗き込み、聞き返す。
すると、彼女は驚きの言葉を紡ぐ……。
「ここで……私を抱いたこと……」
「な…」
「穢れきったこんな身体……ホントは抱きたくなかったでしょう…?
……ゴメンね…」
そう言って彼女は瞳を閉じた。
それは彼女なりの気遣いなのか……。
哀しみを含んだ声音でこぼれた言葉。
閉じた瞳から流れる涙。
その哀しげな表情を見てオレは言葉をつなぐ。
「オレは忘れないよ?
海尋ちゃんの心が弱ってるときに抱いたことはちょっとだけ後ろめたいけど。
でも、少なくともオレは海尋ちゃんのこと……」
その続きを言おうとして口を噤む。
嘘でもいまはまだ『好きだ』とは言いたくなかった。
別に彼女の言葉の穢れているからとかそういった類で言えないんじゃない。
第一、彼女自身は『穢れている』なんて言葉を使っているけれど、オレはそうは思っていない。
いまの世の中、結婚するまで純潔乙女でいられるような女を探すほうが難しいと思っているんだから。
自分の中で彼女への思いがまだ確証したものではなかったのだ。
確かにメンバーに抜け駆けして彼女の控え室に行った。
だから、気に入らないとか嫌いだとか負の思いはない。
だけど、彼女を他の誰にも渡したくないとまではまだ思っていなくて、自分の気持ちを少しずつ確かめている途中だった。
それでも彼女の願いどおりに抱いたのは、男の性なのだろうと自答する。
「海尋ちゃん」
「……ん…?」
「これから、山田さんとか他のマネージャーが来られないときは連絡して。
出来るだけそばにいるから」
「え……」
彼女は閉じていた瞳を開けて、オレのほうに顔を向ける。
「一人にならないで。
あの局で仕事があるときは特に。
……もう二度と、あんな目に遭わせないよ。
アイツらにどんな力があっても」
彼女の見開かれた二つの瞳に涙が浮かび、顔を両手で覆う。
オレはそんな彼女をそっと抱き寄せる。
これが愛なのかどうかわからない。
だけど、傷ついた彼女を守りたいと思う気持ちだけは真実だった―――。