Hazardous Material
□Turning Point
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海尋ちゃんがドラマ撮影をしていると言っていたスタジオに到着し、その姿を探す。
駅から思いっきり走ってきたから息切れしそうだったが、はやる気持ちを抑えながらも、とにかくあのコトを知らせたくてスタジオの中をひたすら探した。
だけど撮影が終了したはずの彼女の姿は見えない。
とりあえず、居場所を確認するためにケータイに電話をかけてみた。
3コール目で出た彼女は、驚いた声音ではあったが屋上にいると言った。
エレベーターを待つのももどかしくて、階段を駆け上り屋上へと向かう。
屋上の扉を開けると、目に入ったのは夜景の光に照らされて一人佇む彼女の姿。
穏やかに吹く夜風に髪をなびかせながら、悲しみに沈んだ表情が見えた。
「海尋ちゃん!」
オレの声に彼女は振り向く。
「りょ、亮太くん……?」
きと戸惑いの声音でオレの名を呼ぶ。
そんな彼女に、一番に告げたかった言葉を発した。
「ニュース、見た? もう大丈夫だよ!」
「え……ニュース……? 何の……?」
「○○プロがアイツらの解雇を公表した!」
彼女はオレの言葉の意味を始めは理解しなかったようで、複雑な表情を見せる。
「…アイツら、クビになって、活動停止だって」
その言葉でようやく理解したようで、海尋ちゃんは瞳を見開いて驚きの表情を見せた。
そんな彼女に優しく微笑みかけて、言葉を続ける。
「アイツらはもうこの世界に戻って来れないと思う。
悪い夢は終わりだよ。 ……もう、苦しめられることもないんだ」
「…………本当……に……?」
信じられないといった表情を見せる彼女は両方の手のひらで口を覆い、両方の瞳いっぱいに涙を浮かべる。
「本当に……もうガマンしなくてもいいの……?」
「うん」
「本当に……もう……終わり、なの……?」
「そうだよ……。 おいで?」
両方の瞳からあふれる涙をぬぐうことも忘れた彼女に、そう言って微笑みながら両手を広げた。
「亮太くん……っ」
駆け寄ってオレの腕の中に飛び込んできた海尋ちゃんをオレはしっかりと抱きとめた。
「ずっと守れなくて……ごめん。
守るって言ったのに……本当にゴメンね……」
苦しかった日々が思い出されて、声を詰まらせながらオレは謝る。
腕の中で、彼女は何度も首を横に振り、
「……亮太くん、は、いつもそばにいて、くれたじゃない…。 それだけで……」
と、泣きながら言った。
―――都会のビル群にこだまする、車のクラクションの音が遠くに聞こえる。
オレは守りたくても守れなくて、彼女は逃げたくても逃げられなくて、周りにがんじがらめになってただ流されるように過ごした辛い日々はもう終わる―――。
そんな嬉しさを胸に、二人とも言葉はないまま、オレたちはしばらくの間、ただそこで強く抱き合っていた―――。