Hazardous Material

□The Beginning of the Tragedy / Agony of Hopeless Grief
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「お前……!」

「……知り合いにこの女とやりたいヤツって書き込みしたらかなり集まってさー。

 ま、ほとんどのヤツが途中で怖気づいちまって、残ったのはコイツらだけだったけどな」



またあの下卑た笑い声で笑う。

鬼畜、人間のクズ―――どんな言葉がヤツにふさわしいのだろう。

憎しみと怒りでどうにかなりそうだった。

男たちとのにらみ合いが緊迫した状態が続く。

そんな中―――ベッドの上の海尋がゆらりと身体を起こした。

それに気付いたオレは、



「海尋、こっちにおいで…?」



と、出来るだけ優しく呼びかけて、手を差し伸べる。

もう、"服"とは呼べないほど引き裂かれた、着ていたものの残骸を身体に纏った彼女はうつろな瞳をしてベッドから降りる。

抵抗した際に殴られて口の中を切ったのか唇の端に血を滲ませていた。

力任せに押さえつけられたのか腕や足に強く掴まれた痕があった。

そして―――足の内側を伝う、一筋の赤……。

一緒に来たメンバーたちは彼女の無残で残酷な姿を直視できなくて、みな、顔を背けた。

だけどオレは彼女の全てを受け入れていたために、そして、これからも支えていくために、視線を外すことなく、微笑みながら手を差し伸べ続けた。

オレの近くまで来た海尋は手を伸ばしたけれど―――途中で歩みを止めたかと思うと俯いてその手を下した。

それから、ふっと方向を変えて、ふらりと窓に向かっていった。

―――嫌な予感にふたたび心臓が嫌な音を立てる。

が、その場に足が縫いとめられたように、まるで金縛りにでもあったかのように動けず、ようやく名前を呼ぶ。



「……海尋…………?」



彼女は窓枠に手をかけてこちらを向いた。

外の夜景に照らされて夜風に髪をなびかせた彼女は、こんな状況でさえキレイだと思わせた。

だけどそう見とれていたのは一瞬で、彼女の言葉でオレは現実に戻る。



「……亮太くん……たくさん、辛い思いをさせて…ゴメンね?」



海尋はつぶれてしまった声でそう言いながら、幾筋もの涙を流して哀しげに微笑む。



「海尋……ダ…メ………! 危ないからこっちにおいで………!!」

「あなたに愛される前に……もっと早く……こうしていればよかった―――」



海尋は窓枠に腰かけたかと思うと背中から窓の外へと倒れていく―――まるで夜の闇の中に吸い込まれるように。



「海尋―――……っ!!!」



ようやく動けるようになったオレは、急いで窓辺に駆け寄り、落ちていく彼女に手を伸ばす。

だけどオレの手は宙を掴み―――彼女の体は暗闇の中へ消えていった。

―――翼を折られた鳥が……翅をもがれた蝶が……底なし沼のような暗い闇に舞い落ちていく―――

そしてその後には耳を塞ぎたくなるような衝撃音が夜の街に響き渡った……。




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