Hazardous Material
□My Everlasting Pure Angel
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面会手続きをしたあとに担当看護師の案内で通された部屋は、白を基調に明るい穏やかな色で統一されている。
最後に過ごした、一番幸せな時間を彩っていた色だろうという。
それは、たぶん、彼女の中にある、あの日の朝のイメージ。
ふたりで作ろうとした未来に思いを馳せた時間の―――。
その部屋に入ると同時に見えたのは……開け放たれたサン・ルームで籐の椅子に座る海尋。
白のナイトドレスを着た彼女は、いつもと同じように歌を口ずさみながら建物の前に広がる庭を眺めていた。
「紫藤さーん、今日も三池さんが来て下さいましたよー」
降り注ぐ明るい日差しの中にいた彼女は、看護師のその声にゆっくりとこちらを向く。
彼女の様子を見ていたその看護師が、少しの間の沈黙を経て、口を開いた。
「……どうぞ」
看護師の許可を得て海尋のそばに行ったオレは彼女のひざの前に座る。
そしてひざの上に置かれている彼女の手を両手で包み込み、顔を見上げて微笑みかけた。
「海尋……元気だった……?」
そっと語りかけたその言葉に、海尋はふわりと天使のような至上の微笑みを見せた。
でも、その微笑みとともにうすべにいろの唇から綴られる言葉はいつも―――
「………だぁれ…?」
―――心に受けた傷は暗く深すぎて―――彼女の心は崩壊してしまっていた。
海尋は全ての記憶を失い、新しい記憶さえ持たない天使になったのだった―――。
〜 end 〜