Hazardous Material

□番外編・キミがおこした奇跡
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キミがおこした奇跡

Hazardous Material -especially epiloge-
by 三池亮太






今朝もベッドに降り注ぐ明るい日差しで目を覚ました。

腕の中には―――規則正しい息遣いでまだ眠る海尋がいる。

そっと髪を梳くように撫で、軽く頭を引き寄せて額にキスを落とす。



「ん……」



海尋は小さく声をもらし、夢うつつの状態で顔を上げる。



「……亮ちゃん……起きてるの…?」

「眩しくて目が覚めちゃった」

「……もう、起きる…?」

「うーん…もう少しこうしていたいなー」



そう言って裸の彼女をシーツごと抱きしめる。



「わっ、……もー、亮ちゃんったらー」

「だって、かわいーんだもーん」

「私は亮ちゃんのほうがかわいいって思うんだけどなぁ」

「こら、成人した男に向かってかわいいって言うなっ。

 次に言ったらー」

「やっ、…亮ちゃん、くすぐったいよー」



いつも同じようにベッドの上でふざけ合って。

そして、いつも同じように幸せなキスをする。



「……!!

 ちょっ、亮ちゃんっっ! 時間っ! いい加減に起きないと会社遅れちゃうよっ!?」

「あ、やべ」



深くなりつつあったキスは、彼女のその言葉で制止されてしまい、現実に引き戻される。

代わりに唇に軽くキスをして、二人でベッドから起き上がった。





オレが家を出る準備をしている間に、海尋は手際よく朝食を作り、並べていた。



「お、今朝は和食だ」

「うん。 今日は遅くなるから外で食べてくるって言ってたでしょ?

 だから和食にしてみた」



そして、ふたりでダイニングテーブルに向かい合って座り、手を合わせる。



「いただきまーす」

「まーす」

「もー、亮ちゃん、横着ー」



いつもと同じように二人で朝食を取っていると、TVから先日撮ったばかりのオレたちの新曲のPVの一部が流れだした。

それを見て、海尋はふと呟く。



「亮ちゃんって、ホントにこの人にそっくりだよねー。

 下の名前が一緒って、なんか偶然すぎない?」



TVには、軽快なポップス調の歌を歌いながら、翔たちとともにステップを踏むオレが映し出されている。

だけどいま、海尋の目の前にいるオレは『アイドルグループ・Waveの三池亮太』という人間ではなく、一般の会社員である別人なのだ。



「……全くの他人の空似だよ。

 ってゆーか、オレのほうが男前だっつーの」

「もー、自分で言うー?」



海尋はくすくすと笑う。

その笑顔は、まぎれもなく、あの朝に見せた幸せそうな笑顔だ。



―――ある日突然、海尋はオレが見舞いに行ったことを記憶に留めるようになった。

それから紆余曲折はあったけれど、立ちふさがる障害を乗り越え、海尋が療養していた病院を退院すると同時にオレたちは人里離れた場所で一緒に暮らすことにした。

出来るだけ過去の記憶を思い出させないようにと細心の注意を払う。

二つの立場を間違えないようにすることについて、気疲れしないと言えば嘘になる。

だけど、彼女にあの忌わしい記憶を思い出させないためなら、どうってことない。

これが仮初めの世界だとしても、たとえこの世界がいつかは壊れるものだとしても、海尋がオレを愛してくれるのならこれ以上は望みはしない。

そして、ずっと守り続けよう―――。






朝食のあと、身支度を終えたスーツ姿のオレはビジネスバッグを持って玄関に向かう。

海尋はそれを追いかけてきて、満面の笑顔で見送ってくれる。



「じゃあ、いってくるね、………”汐梨”」

「うん、亮ちゃん、いってらっしゃい」



海尋は、あの瞬間までの過去と記憶を失い、『汐梨』という新しい名前と未来を手にした。

いまはもう、オレと一緒に作る新しい時間を忘れることはない。

それは、一度は手の届かない天使になってしまった彼女が起こした奇跡だった―――。





〜 especially epiloge end 〜



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