『花音-Kanon-』

□過去・思い出はセピア色に染めかえて
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花音-Kanon-

過去・思い出はセピア色に染めかえて







皆さんに妊娠していることを知られてしまった翌日、私は重い足取りでスタジオに向かった。

今後の話し合いということなので、行かないわけにはいかない。

私はスタジオの扉の前で大きく深呼吸してから、覚悟を決めて扉を開けた。



「おはようございます! 昨日はお騒がせしてすみませんでした!!」



扉を開けると同時に頭を下げて挨拶をしたけれど、返事はなく。

秋羅さんを守るために咄嗟についた嘘とはいえ、とんでもない言葉だったのだと実感する。

だけど、すでに口から零れてしまった言葉はもうどうしようもなくて、唇をかみしめて泣きたい気持ちを抑えながら笑顔を作って顔を上げた。

……が。

部屋にいたのは神堂さんだけだった。



「え?」

「……おはよう、紫葵」



早すぎたのかと思って時間を見たけれど、そうではなく、むしろ足取りが重かったせいで遅れている。

他の皆さんは…と聞くよりも先に神堂さんが言った。



「1対1のほうがいいだろうと思い、メンバーには1時間ほど遅れて来てもらうことにした。

 紫葵に確認したい事項がいくつかある。 聞かれたくないこともあるだろうが、大切な事柄ばかりだから答えて欲しい」



話し合いということでいろんなコトを聞かれるだろうと覚悟はしてきたけれど、改まって言われると身が竦む思いがする。

昨日、神堂さんには子どもを産むつもりでいるコトを伝えた。

出産はワールドツアー期間中になってしまうから、この子を産むのであれば、ツアーゲストは辞退しなければならない。

それどころか、こういった状態ではJADEとの活動自体がなくなってしまうコトだってある。

いや、状況次第では、芸能界を引退しなければならないのかもしれないのだ。

だけど私は、それでも、この子を産む決意をしていた。



「……はい、きちんと…お答えします…」

「父親が誰かわからなくても産む決意は変わらない?」



いきなりのストレートな質問にドキリとイヤな鼓動が跳ね、背中を冷たい汗が流れる。

それでも気を振り絞って私は神堂さんを見返して答える。



「―――はい」

「そうか。

 ……昨日の話だと、出産とワールドツアーが重なってしまう。 さすがにお腹が大きくなったキミをステージに上げることはできない」

「……はい、わかって…ます」

「昨日、あれから夏輝と話し合った。 紫葵が子どもを産むコトを諦めないのならば、ツアーゲストは止めてもらうしかない、と。

 今回はそれで構わない?」



今回は、という言葉に引っかかりを感じながら、予想していた通りの質問に私は深呼吸をして頷いた。


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