『花音-Kanon-』
□暁に消えゆく by 井上秋羅
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番外編・暁に消えゆく
―――その日は朝から雨だった。
朝目覚めたときに雨が降っていると鬱々とした気分になり、傍から見れば異常なほどに気が滅入ってしまう。
……それは、ユミカのあの残酷な姿を思い出してしまうから。
全ての音を消してしまうほど土砂降りだった、あの朝。
駆けつけた先の電話ボックスの中でうずくまるようにして泣いていたユミカ。
あの日から、安穏とした日々は消えてしまった―――。
***
消化しきれない鬱々とした気持ちの中、次の新曲の打ち合わせにいつものスタジオに向かう。
先に到着していた夏輝は手元の譜面を探すようにしながら、新曲候補のデモを聴いていた。
いま会議室に流れているその曲は少し春らしくない感じがしていて、思わず夏輝に尋ねる。
「……なんか、春らしくねーな。 路線変更か?」
「お前もそう思う? 他のはそうでもないんだけどさ」
夏輝が首をひねりながら他の曲を流すと、そこにはいつもの旋律が流れる。
「まぁ、春にも何か考えがあるんだろ」
「そうだな…」
そうしてる間に冬馬もやってきて、いつものように打ち合わせが始まった。
が、何故かあの曲は打ち合わせに上がらなかった。
休憩のために席を立とうとする春に夏輝があの曲について尋ねると、始めは思い当たるふしもないのか、
「何のことだ?」
と不思議そうな表情をみせる。
そこで確認のために曲を流すと春は一瞬こわばった表情を見せた。
かと思えば、すぐにいつもの表情に戻り、「間違えて録ってたのか…」と呟く。
全く違う曲調の、歌詞のついていない曲。
しかもどれと比べてもはるかに短かったため、間違えて録ったものと言われてオレたちは納得してしまう。
春にしては珍しいミスだなと思いながら、そのまま休憩に入った。
そして、その休憩時間、スタジオのスモーキングエリアでタバコを吸っていた時に春は告げた。