『花音-Kanon-』

□epilogue いままでも、そしてこれからもずっと
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花音-Kanon-

epilogue いままでも、そしてこれかもずっと






ユミカさんの四十九日が過ぎたある日―――。

子どもたちが学校へ行った後、春は私を仕事部屋へと呼んだ。

新しい仕事の話かと思い、二人分のコーヒーをトレイに乗せて、ドアをノックして声を掛ける。



「春? 入るよ??」

『……ああ』



ほんの少しだけ遅れて返ってきた、中からの返事を聞いてそっとドアを開ける。

春は窓近くの壁にもたれて立ち、外を眺めていた。

その姿は本当に何度見ても見惚れるほどのカッコよさで、年甲斐もなくいつも心がときめいてしまう。

―――だけど、今日の春は何かが少し違っている気がする。



「……春…?」



恐る恐る声を掛けると、春はゆっくりと私のほうを向く。

いつもと違って不安を煽るような切ない表情を浮かべていて…。

そして、その表情を苦しそうなものに変え、机の上にあった一通の封筒を差し出した。

私は持っていたトレイをテーブルに置き、その封筒を受け取る。



「私に? これ、なに?」

「……」



尋ねても返事はなかった。

ふと春を見ると、何かを堪えるような表情で視線を下げている。



「……?」



不思議に思いながらも封筒を開けると―――そこには、『離婚届』が入っていた。

しかも、『夫』の部分は全て記入されていて―――。



「え…っ……、なに、これ…っ……!!」



突然のことに私の頭は一瞬で真っ白になる。

―――どうして!?

―――春は私と別れたがってたの?いつから??

全身から血の気が引き、背中を冷たい汗が流れる。

心臓の鼓動が苦しくなるほど胸を打ちつけ、手足は震えて立っているのがやっとだった。

頭の中は「なぜ?」という言葉しか浮かばないほど混乱していてパニック状態に陥る。


 
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