Hazardous Material
□Hazardous Material / Fletfulness
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メンバーたちの動揺が、背を向けていてもひしひしと伝わってくる。
「え……な、なんだよ、亮太。 その話…」
「マジなのか?!」
「まさか海尋ちゃんが……」
隠していた事実にメンバーが口々にオレに問いかけるが、それ以上は口を噤んだ。
メンバーが説明を求めている間に、社長が冷たい一言を放つ。
「ラビットの紫藤海尋…か。
あの娘ならどうせ枕営業で慣れてるんだ、そんなことくらいなんともないだろうよ」
「!」
枕営業―――。
スポンサーや局ディレクターに新人の所属タレントを抱かせ、仕事をとるような芸能プロダクションがあることは知っている。
だけど、デビューした時から知っているオレはそんなコトが出来る子じゃないことも知っているんだ。
だからオレは、社長に2回以上反論することは禁止されているとわかっていても反論した。
「彼女はそんなコトが出来る子じゃありませんっ!」
「弱小プロのド素人がたった1年であれだけの人気が出た理由を考えると、枕営業したとしか思えないだろ」
「社長!」
確かに、養成所とか劇団などに入って歌やダンスのレッスンを続けても、あのスポットライトが当たる確率はかなり低い。
ましてや、デビューしてわずか1年で高視聴率を取れるなんて、奇跡に近いのは自分がよく知っている。
だけど、それは彼女の天性と努力の結果で……。
「お前の言うように、もし枕営業をしていないとしても今後は紫藤海尋には関わるな。
○○プロはウチよりも大きいし、業界1位の名は伊達じゃない。局での力も強い。
ウチも無傷じゃいられないし、ラビットな
んか一瞬で消えてしまうぞ。
……言ってる意味、わかってるな?」
「…っ!」
芸能事務所の力関係がそのままタレントたちの力関係に影響されるコトは少なくない。
社長はそれを言っているのだろう。
社長自身もそういう苦い思い出があったからこその言葉だとそれなりに理解できる。
だけどオレには割り切れなかった。
拳を握りしめ、唇をかみしめる。
「彼女はお前たちにとって危険要素―――hazardous material だな」
社長はボソッとそう呟いた。
―――これから先、メンバーたちならどうするのだろう。
全てを捨てて彼女を守るのだろうか。
彼女を見捨てて自分を守ろうとするのだろうか。
芸能界で成功するために他人を利用しようとしていたオレ。
Waveのことさえ踏み台にしようとしていたオレ。
そんなオレがオレらしくない行動を取っている。
―――彼女のことなんて放っておけばずっと気が楽になるのに。
そんな考えが頭をかすめるコトはあった。
けれど、オレの中では確実に彼女への思いが深くなっていたのだった―――。