『花音-Kanon-』

□epilogue いままでも、そしてこれからもずっと
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「ねぇ、春、これはどういうことなの?

 いつから私がイヤになったの? 私が邪魔なの??

 ―――ねぇ、春、答えて……!!!」



感情のままに春に縋りついて矢継ぎ早に質問を浴びせる。

―――昨夜だってあんなに愛してくれたのに、ワケがわからないよ……!!

その時、昨夜の春を思い出した。

とてもツラそうな、そして悲しそうな表情。

そして、いつもより激しい愛撫。

その理由を聞く間もなく、春が与えてくれる快感に私はもう何も考えられなくなっていたけれど―――。



「ゆうべ、何か変だなって一瞬思ったの。

 だけどまさかこんなもの用意してたなんて思いもしなかった。

 春は私と一緒にいることすらイヤになったの!?

 私と別れたかったのならどうして昨夜―――!!」



叫ぶように言った時、春の手が私の両腕を掴んだ。

そして、これまでにないほど険しい表情を見せて春は言う。



「キミと別れたいはずないだろう…!?

 ずっと大切に思ってきた。 これからも、ずっとオレが守りたかった。

 だが―――」

「じゃあ、どうして!

 こんなもの突然渡されて、理由もわからないまま『はい、わかりました』なんて言えるわけないでしょう!?

 理由を言って! 私と別れたくないっていうんならこんなもの用意した理由を教えてよ!!」



私は激昂したまま、春の言葉を遮る。

すると春は私の腕を掴んでいた手を離して口を開いた。



「………ユミカさんが亡くなったいま、キミはもう―――」



そこまで言って、春は哀しそうな表情で言い淀む。

その続きは聞かなくても春が何を言いたいのかわかった。

長年一緒にいるのは伊達じゃないもの。

その刹那、パニックだった思考回路は一瞬にして平常に戻る。

頭に上っていた血が一気に下がっていく。

私は小さくため息をつき、「春、あのね…」とナイショ話をするかのように口に手をあてて彼を呼ぶ。

そして、不思議そうな表情をして屈んできた春の頬を両手で挟むようにバチン!と叩いた。


 
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