想像ストーリー☆

□CMとデリカシー(伊×ニョタ芹)
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「せんぱーい!」

腕時計を見ながら、俺の事を呼んでいるであろう方向に目を向けた。

すると其処には、

「伊丹先輩! 今日はデートですよ! どこ行きましょうか」

目を輝かせながら、すごい嬉しそうな顔で此方を見上げる女の子が立っていた。

「お前・・・・・・、誰だ?」

髪の毛は黒に近いこげ茶、肩に付くぐらいの長さで毛先はカールしている。

そして左耳には髪が掛かっており、その上にはピンクの飾り物が見えた。

格好もフリフリのものを身に付けている。

そして俺の腕に腕を絡ませてきて、二の腕あたりに当たる軟らかいもの。

「僕です。芹沢慶二ですよ」

口を尖らせながら此方を覗き込んでくる。

まさか、お前!

「先輩がこの前言ってた事、実践したらこうなちゃって。前日に用意しといてよかった」

腕から離れ、その場でクルリと回ってみせる。

その瞬間、履いているのがスカートだったために、芹沢の太ももがチラリと顔を覗かせた。

「馬鹿かお前! お前が無意識にやってしまいそうなことだったから、忠告してやったのに! なに実践しとるんじゃ、ボケェ!!」

能天気な奴の頭に向け、目いっぱいの力で平手打ちをかます。

響きのいい音がすると、頭を抱え込んでその場にヘナヘナとしゃがみ込んだ。

「ふぇ、そんなに言わなくてもいいじゃないですかぁ」

ズルズルと鼻をすする音が聞こえてきた。

「おっ、おい」

何故泣き出すんだ! 俺は、俺は!

ふと周りを見れば、観衆から浴びせられる冷たい目線。

そうだ、俺らは傍から見れば男女のカップルで、しかも野郎が女に手を挙げ泣かせてしまった…様に・・・・・・映るのか。

「芹沢! 行くぞ!」

「あぁう、先輩ちょっとぉ!」

芹沢の腕を掴んで、俺は二人で行く予定の場所に駆け出した。







「それにしたって何であそこで泣くんだよ。いつもはヘラヘラして『叩かないで下さいよぉ』とかほざくくせに」

「それとこれは別物ですよ」

真っ暗な映画館の中、俺達は一番後ろの席に腰を下ろした。

周りには観客は居らず、二人きりの観賞になっているようだ。

今見ているのは芹沢が見たがっていた映画で、内容はラブストーリー。

今後どんな展開を見せるのか、 これのCMを見た事の無い俺には分からないが、とりあえず今はコイツと話を付けなければ。

「折角先輩が喜んでくれるかな、とか考えながらスーツのままで婦人服売り場に行ったんですよ? なのに呆けとか言われたら・・・・・・」

またすすり泣き始めた。

「女みたいなこと言うんじゃ」

今日のコイツ相手じゃどうも調子が狂う、そう考えながら思っていることを口にしようとして途中でやめた。

俺の横ですすり泣いているのは間違いなく女だ。

でも中身は男なわけで・・・・・・。

だからと言って性格まで女女になってしまうのか?

「女の子ですよ! 今は、この時間は、今日は。多分明日まで…・・・」

声を小さくして言葉を発した後輩。

思わず腕の中に収めた。

肘掛が邪魔で、奴の全体を俺に触れさせられないのがじれったい。

「先輩?」

「・・・すまねぇ、俺お前の事全然分かってなかった」

さっきまでの調子、それは俺がコイツを男前提で接し、そして女の扱いを知らないでいたから狂ってしまった。

今一女の扱い方なんて分からないが、コイツを女として見れば何とかなる気がする。

今までに無いように、真綿で包み込むように愛でてやればいいのだろうか。

何処かの王子様のように紳士に触れてやればいいのか。

全く分からないが、とりあえず芹沢の頭を撫でてやると、犬のように俺の胸に頭をこすり付けてきた。

これは正解なのだろうか。

兎に角、今日一日はコイツが男に戻ることは無い。

また女になったときに困らないように答えを探し出しておこう。

出来れば沢山、な。

「先輩」

そう言って腕の中で奴は此方を見上げてきた、その目は何時ものとは違う雰囲気を纏っている。

その目に吸い込まれるように顔を近づけていき、吐息がかかるぐらいの距離になった時、とある音声が聞こえた。

『ひゃん、ちょっ。そんなに・・・・・・、せっかちなんだから』

二人で潤滑油をなくしたロボットのように首をスクリーンに向けた、ギギギという効果音と共に。

そこに映っていたのは肌色肌色肌色。

ぐはっ、なんつうもの見たがってたんだコイツ。

そう思いながら奴のほうに視線を戻すと、後輩は膨れていた。

「これ、Uのほうですよ・・・・・・、話が掴めないと思ったら、こういうことだったんですか」

「どういうことだよ」

「僕が見たかったのはTのほうです! Uになるとこんな感じにベッドシーンが入っちゃうんですよ! 僕がこれを先輩と見たがるわけ無いじゃないですか!」

大声でスクリーンを指して言う芹沢。

その言葉を聞きながら、さっき映画チケットを買った時の事を振り返ったいた。

本日の上映と書かれた電子掲示板を見て、コイツが見たがっていたのを見つけて、そのチケットを買ったんだ。

そのとき偶々同じタイトルで並んでいたから、てっきり上映時間の関係で陳列しているのかと。

そしてものの見事にTやらUやらが『・・・』で省略というか字余りでもれてしまっていた。

コイツはすすり泣いてずっと下を見てるし、俺は映画の事なんて良く知らなかったし。

これって一体誰が悪いんだ?

思考を事の始めに戻す。

あぁ、俺が泣かせたのが悪かったのか。

反省の言葉を頭の中で呟いても、聴覚は映画の音声で犯されていき、不謹慎にも体が熱くなってきた。

俺って一体、何処まで残念な奴なんだ。

頭を撫でていた手を自分の眉間にあてがってため息を吐く。

「芹沢」

「なんですか」

「わりぃ、悪いのは全部俺だ」

そう言って眉間から芹沢の軟らかい髪へ手を移し、指で絡ませ自分の口元に持っていく。

「もう・・・我慢できねぇ」

「へっ?」

俺の行動と言動に顔を真っ赤にし、目を見開いた芹沢が素っ頓狂な声を出した。

「せっ先輩? 何を仰って」

「お前、今日、下な」

「ちょっ、嘘でしょ?」

そんな事を言う芹沢の手を掴み、俺の下半身の熱に触れさせる。

それを目で追っていた芹沢が、熱を感じた瞬間ビクリと震えて、怯えた兎のように此方を見上げてきた。

潤んだ目が、俺の両目を見ようと左右に揺れる。

「駄目か?」

すると芹沢は開いているほうの手に握られていた半券を見、腕時計も見た。

「あと35分位です。先輩の肩、噛み付きますからね」

「・・・・・・分かった」

そう言うと俺らは深い口付けを交わした。









「肩痛ぇ」

襟首のところから自分の手を入れ、右肩に触れるとくっきり歯型が付いていた。

「仕方が無いでしょ? 残り少ない時間でお互いにヨくなるためには、それ相応の激しさが伴って、声も大きくなっちゃうんですから。どうせ先輩の事だからハンカチもって無いかったでしょ」

「すみませんねぇ、ハンカチも持ってなくて」

俺の言葉を聞くと、芹沢は徐に懐からとあるものを取り出した。

それを見て俺は、服の中に手を突っ込んだまま固まる。

「お前・・・! 持ってたんなら!」

固まった俺を他所に足を進めていく奴。

ある程度進んだところで、此方を向いて満面の笑みで此方を向いた。

「どうせなら先輩に痕を付けておきたいじゃないですか。どんな姿だろうと僕の物だって」





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