Trip梯

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「ギャ――――!!」

「っ!!」


サクラの叫び声で一気に目が覚めた私は、勢いよく上体を起こした。身体に走る鈍い痛みに顔をしかめつつ辺りを見渡すと、驚いているサクラの側に座るサスケと目があった。


「起きたか」

「ここは…」

「依頼人の家だ」

「ついたんだ…。あ、おぶってくれてありがとう」

「ああ」


途切れる前の記憶から、サスケがここまで運んでくれたことを思い出しお礼を述べると、ぷいと顔を背けながらそっけなく返事を返してくれた。

こういうとこフガクさんとそっくりだよね、サスケって。ミコトさんとかイタチさんはにこやかに返事返してくれるだろうけど。

というかシロは何処行ったんだろう。私が寝てたから帰っちゃったのかな。あー、ちゃんとお礼言えてないや、ごめんシロ。


「どうしたんだってばよ!先生?」


ナルトがカカシ先生に声をかけたことで私の意識も思考のなかから浮上し、カカシ先生に注目する。


「ん?ああ……」


カカシ先生はいったん考え込むのをやめ、ゆっくりと言葉を紡ぐ。


「………死体処理班ってのは、殺した者の死体はすぐその場で処理するものなんだ……」

「それがなんなの?」


意味が分からない、といった表情で尋ねたサクラに、私は布団を軽くたたみながら問い掛けた。


「サクラ、あの仮面の子はザブザの死体をどう処理したと思う?」

「? 知るわけないじゃない!だって死体はあのお面が持って帰ったのよ」

「そうだ…殺した証拠なら首だけ持ち帰れば事足りるのに…、だ」

「それに仮面の子がザブザを殺したあの武器、それも問題だよね、カカシ先生」

「ああ……」


そこまで言った時、サスケが何か合点がいったような顔をした。


「………まさか…」

「あーあ、そのまさかだな」


結論として、ザブザは死んでいないらしい。(知ってたけど改めて言われると辟易する)

ハクがザブザを殺すときに殺傷能力の低い千本を使用したことや、ザブザの死体をその場で処理せずに持ち帰ったことなどが理由としてあげられた。

結局、ハクはザブザを殺しにきたのではなく、ザブザを仮死状態にし死んだと見せかけて助けたのだ、という結論におちついた。

つまり、少なくとももう一回はザブザと戦わないといけないってこと。わかってたことだけど、改めて言われるとげっそりする。あ、げんなりかな。まあどっちでもいいけど。

考えすぎじゃないかと問うタズナさんにカカシ先生は冷静に返す。


「いや…、クサイとあたりをつけたなら出遅れる前に準備しておく。それも忍の鉄則!」


一つ間を置いてカカシ先生は続ける。


「ま!ヤツが死んでるにせよ生きてるにせよ、ガトーの手下にさらに強力な忍がいないとも限らん……」


私はうんざりするのだが、ナルトは違うらしい。ザブザが生きているかもしれないときいて震えながら喜んでいる。


「ナルトが何で嬉しそうなのか理解できない…」

「ま、それが普通の反応だよね」


たたんだ布団を部屋の隅に移動させながら言った私の言葉にカカシ先生が頷きながら反応してくれる。寝てなくていいのか聞かれたけど、あんまり寝てても駄目になる気がするし大丈夫と答えておいた。


「先生!出遅れる前の準備って何しておくの?先生とーぶん動けないのに…」


サクラが尋ねると、カカシ先生は喉の奥で笑いながら爆弾を落とした。


「お前達に修業を課す!!」


一瞬の間の後、サクラが焦ったように抗議する。


「先生!!私達が今ちょっと修業したところでたかが知れてるわよ!相手は写輪眼のカカシ先生が苦戦するほどの忍者よ!!(私達を殺す気か――っ!)」


サクラから副声音が聞こえる気がする。
奇遇だなサクラ。私も君に賛成だ。と、思わず頷いた私は悪くないはず。


「サクラ、凪。その苦戦してるオレを救ったのは誰だった。お前達は急激に成長している。」


カカシ先生はナルトの方を向いて笑った。


「とくにナルト!!お前が一番伸びてるよ!」


隣でサスケがむくれた気配がする。いや、君は元々が高いから。アカデミートップとドベの違いがあるから。

いつザブザが再来するかわからないのに危険だと言うサクラに、仮死状態になった身体が元通りになるには一定の期間が必要だから心配ないというカカシ先生の言葉を聞き、ナルトのテンションはさらにあがる。


「ザブザの身体が回復するまでの間に修業ってわけだな!面白くなってきたってばよ!!」

「面白くなんかないよ」


入口にいたのは小さな男の子。タズナさんがイナリと呼び、そのイナリ君がタズナさんをじいちゃんと呼んだことから、この子はタズナさんの孫でイナリということがわかる。そのイナリが、ナルトの言葉を全否定した。


「母ちゃん、こいつら死ぬよ…」

「なんだとォ――!!このガキってばよォ――!!」

「ガトー達に刃向かって勝てるわけがないんだよ」


諦めきった眼をしている。それがイナリ君に抱いた第一印象。
こんな小さな子供にこんな深い絶望の目をさせるなんて、ガトーは本当にこの子にとって最悪なことをしたんだ。許せない、私の心の中に静かに怒りが込み上げてきた。


「いいか!おイナリよく聞け!オレは将来火影というスゴイ忍者になるスーパーヒーローだ!!ガトーだかショコラだか知らねーが!そんなの全然目じゃないっつーの!!」


左の拳を突き出してビシッと決めるナルト。そんなナルトを見てイナリ君は少し俯いてから顔を上げて嘲笑った。


「フン…。ヒーローなんてバッカみたい!!そんなのいるわけないじゃん!!」


死にたくなかったら帰れ、と言い残しイナリ君は自室へと戻っていった。イナリ君の去った後の部屋には少し気まずい雰囲気が流れる。イラつきを抑えきれない、といったかんじのナルトと申し訳なさそうなタズナさんとツナミさん、わけがわからないといったかんじのサクラに無表情のカカシ先生とサスケ。
申し訳なさそうに苦笑しながら「すまんのう…」とタズナさんがこちらに頭を下げた。

少しして、やはり我慢ができないのかナルトがイナリ君を探しに行くと言い出した。一発ガツンと言ってやる!といきりたっているが、何故イナリ君がああなったのかを知っているために私はあまり頭ごなしに怒ることを静観できない。


「ナルト」

「? 何だってばよ」

「ムカつくのもわかるけど、人が周りに反発的な態度をとるのには必ず理由がある。イナリ君の場合もそうなのか、ただ無意味に反抗的なだけなのか…。少し考えてあげてくれないかな」

「……? わかったってばよ」


不思議そうな顔をしながらも頷いてくれたナルトを見送り、私はこれからの物語に思いを寄せる。

これから私たちは木登りの修行に入る。その間あの二人はザブザの体の回復を待つ。あの二人の居場所と諸悪の根元であるガトーの居場所を特定するにはこの期間を使うしかない。

正直、私はまだどうしたらいいのかわからない。この話の中でナルト達は仲間の命が脅かされる恐怖と、自分の実力の足りなさを知り、それに、命と忍のあり方について考える。これからのナルト達にすごく大事な話で、それを簡単に変えることはできない。私も原作を詳細に覚えているわけではないし、最強補正がついてるわけじゃないからちゃちゃっとすべてを倒せるわけじゃない、それに自分の知識がこの世界に通じるのか、いろいろ不安もある。

でも、何もしないで原作通りに進んでいくのをただ見ているだけなのはつまらない。だから、抗ってみようと思う。

何が変えられるのか、それとも何も変えられないのかはわからないけど。
とりあえず、やれるだけやってみようかな。




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