Trip梯
□07
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「で、何ですか?」
何の用もなくここに連れてきたとは思えません。と付け足して餡蜜を頬張る。うまい。
イタチさんは、凪に隠し事はできないなと苦笑して、真剣見を帯びた目をこちらに向けた。
「凪に頼みたいことがあってな」
「いいですよ」
あ、イタチさん驚いてる。貴重。
「まだ何も言ってないが」
「他でもないイタチさんの珍しい頼み事ですから。断る理由はないです」
そういってもう一口餡蜜を頬張る。
イタチさんは動かない。
「イタチさんの、いえ、大好きなイタチさんの大好きなうちは家のための頼みだったら、私は何でもしますよ」
これは本心。私にいろいろ気付かせてくれたうちは家の皆、それに修業を見てくれて、まるで本当の兄のようにしてくれたイタチさんのためなら、何でもしたいと思う。
イタチさんが小さく笑った気配がした。
「そうか、ありがとう凪」
「何したらいいですか?」
「サスケのことを、おまえに託したい」
「サスケを?」
ああ。と言ってお茶を啜るイタチさん。湯呑みを机に置き、視線を落としたまま続けた。
「これから、あいつにとって辛いことがたくさん起こるだろう。その時に、凪にそばに居てやってほしいんだ」
「…イタチさんは?」
「オレは、あいつの側に居てはいけない。いることはできない」
「……」
ホントはどうにかして止めようと思ってた。イタチさんに辛い思いしてほしくないし、うちはママもうちはパパも大好きだし死んでほしくないから。
でも、イタチさんの目を見たらそんなことできなくなった。その目に宿る覚悟があまりにも強くて。
「…わかりました」
だから私は、この人の共犯になることにした。
先を知っているのに救わない。これを共犯と言わずして何を共犯というのか。
「私はイタチさんを止めません。でも、覚えといてください。私は、どこにいってもイタチさんが大好きです」
ありがとう。そう言って微笑んだイタチさんに、私も微笑みかえした。その日はそのまま取り留めのないことを話し、イタチさんに誘われてうちは家で夕飯をご馳走になった。
少し遅くなったので帰りはイタチさんに送ってもらうことになった。
「いつもありがとうございます。ご馳走様でした」
「いいのよ、また来てね」
うちはママに笑顔で返事をかえし、踵をかえそうとした時、うちはパパに話し掛けられた。
「凪」
「はい?」
「これからも修業を怠るなよ。フウザは良い忍だった」
「……、はい!」
不器用だなぁと内心苦笑しつつ、励ましてくれたうちはパパの心遣いが嬉しくて自然と笑顔が浮かんだ。
一人わけのわかってなさそうなサスケに手をふり、うちは家を後にした。
ふと思ってしまった。私はもうアカデミーに入っている。ということは、もう時間がない。
あと何回、あの暖かい家族団欒の風景を見ることができるんだろう。
私はこの先を知っている。もしかしたらあの団欒を守ることができるかもしれないのに、それをしない。
突然泣きたくなった。
ごめんなさい。卑怯で臆病で頑固な私をどうか怨んでください。
「凪」
「、…はい?」
俯き考え事をしていたため反応が遅れた。顔をあげてイタチさんを見ると、儚げな笑みを浮かべていた。
「すまない」
「……」
この人はエスパーなんじゃないだろうか。私が考えていることはこの人には筒抜けなんだ。
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