番外編
□◆幼いある日
1ページ/1ページ
小学校の二年生になったある日、私はエコバックをもってスーパーに向って歩いていた。小さな手に握られた紙には母の字で、ぱん、たまご、さとうと書かれている。別にひらがなじゃなくても読めるけど、外見は小学校二年生。つまり子供。ちょっと漢字を理解するには早い。まぁ中身はもう二十歳を過ぎてる気持ちだけど。
……にしても、遠いなぁ…。
この小さな体に見合った短い脚では、スーパーまでの道のりがやけに長く感じる。でも行かなければ仕方ないので疲労感の隠せない足取りで目的地まで向かう。
すると、スーパーまでにいくつかある公園のうちの一つの近くの電柱に、女の子と男の子が向かい合っているのが見えた。一見すると女の子は電柱の根元にうずくまっているように見える。不思議に思い、少し見つめていると女の子の方がこちらを向いた。
背は同じくらいだろうか。茶色の髪を肩までで短く切り、前髪を横に流してピンでとめている。大きな目をした可愛い女の子だ。見つめられて凪は何となく目を逸らせないでいた。すると、女の子の異変に気付いたのか男の子もこちらを向いた。黒髪短髪の少しツリ目ぎみの男の子だ。
何だかわからない沈黙。それをやぶったのは女の子だった。
「お姉ちゃん、どうしたの?」
「いやいや、君たちの方がどうしたの?」
思わずつっこんでしまった。軽く咳払いして改めて尋ねる。
「そんなとこで何してるの?」
「あの、この子達……」
「?、……あぁ」
気まずそうに二人がその場から体をずらして、それが見える。二人の足元にいたのは、段ボールに入れられた三匹の子猫。まだ目があいていないことから生まれて数日といったところか。そばに親猫がいないということは、どこかの誰かが猫を飼っていたが、その猫がいつの間にか妊娠、出産。子猫は育てられないし困る、ということで子猫だけ捨てた。といったところだろう。心無いことをする人が多くて困ったものだ。とため息をつく。
二人の方に目を向けると子猫を見つめて悲しそうに目尻を下げていた。優しいいい子達だな、と頬を緩めたがこれは優しさだけでは解決できない、と無表情に戻った。
「で、どうするの?飼うの?」
「わからない、お母さんたちに聞いてみないと……」
「うちも。かーさんたち許してくれるかな……」
「……あのね、キツイこと言うかもしれないけど、絶対に飼うことができるっていう確信を持ってないなら、捨て猫とかに優しくしちゃダメだよ」
「どうして?」
「だって、期待しちゃうでしょ」
捨てられている動物を見て可哀想に思い、餌を与えたり触ったりする人は少なからずいるだろう。しかし飼うことはできずにそのまま放置しておく人がいる。いや、そういう人が主だ。
しかし、捨てられた方からしてみればそれは非常に残虐な行為だ。食べ物もなく、冷たく寂しい環境の中で、少しでも温もりにふれてしまえばその温もりをさらに欲してしまう。しかし欲したところで簡単には得られない。動物たちはその温もりに飢え、孤独を感じてしまい悲しみは増す。
温もりを与え続けることができないのなら、むやみに与えてはならない。本当に可哀想に思うなら、もっと考えて行動しなければ。
しかし女の子は納得がいかないようで、眉を寄せて苦しげにつぶやいた。
「でも…っ」
「君は優しいね。この子達をどうにかしてあげたいけど、何もできないことを知っているから苦しんでいる。そっちの君も」
「……うん」
「だって、さむそうだし」
「……うん、よし。じゃあこうしよう。私が、この子達を飼うよ」
「ほんと!?」
「で、でも!いいのか!?」
「うん、大丈夫」
今まで我が儘言ってなかったからお母さん達に心配されてたし。「して欲しいことがあったら言ってね!」っていわれてるし、大丈夫でしょ。
「ってことだから、安心して。ね?」
「……っうん!ありがとう!おねーちゃん!!」
「ありがとーな!」
「どういたしまして。よ、っと」
家に子猫の入った段ボール箱を持って帰るため、それを持ち上げる。が、筋力に恵まれてない子供の腕ではその重さに耐えることができず、よろめいてしまう。
すると、背中に感じる小さな手の感覚。
「だいじょうぶか?」
「あ、ありがと」
「わたしももつよ!いっしょに!」
にこりと笑って、私の持っているのと反対の方を持ってくれる女の子。
「じゃあ一緒に行こっか」
そこから他愛のない話をしながら帰路についた。おつかいを達成できていないことが多少気になるが、そんなものは後で行けばいい。そんなことより、驚いたことが一つ。
「あ。そういえば、自己紹介してなかったね」
「ほんとだ!わたしはね、あいだ りこ!りこでいいよ!しょーがっこう3ねんせー!よろしく!」
「ひゅうが じゅんぺい、しょう3。おれもじゅんぺーでいいよ、よろしくな!」
………ん?
「おねーちゃんは?」
これは、なんというか………
「成沢凪、小学校2年生……です」
年上、だったんだー……。
幼いある日
(リコちゃん、じゅんぺーくん、よろしくおねがいします……(年上…))
(ふつーにしゃべってよー!よろしくね、凪ちゃん!)
(おれ凪のほうがぜってぇとしうえだとおもってた)
(あ、あはは……(私もだよごめんね))
_