きまぐれ猫とキセキ。

□side He
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帝光中に通ってはや一年がたった。一年もたつと周りはグループができ、一人で居る人は珍しい。ボクはそのめずらしい人の一人だ。好んで一人でいるわけではないが、良くも悪くも影が薄いため、ボクを見つけられる人は少ない。
今も、ボクは一人本を読みながら廊下を歩いている。図書室に入った新刊。教室に帰るまでの道で我慢できず、読み歩きしていると誰かにぶつかった。
その人は「あ、すみません」と言ったままかたまっていた。あ、またボク見つけられてませんね。できるだけ驚かせないように控えめに声をかけると、やっと目が合った。可愛い、というより綺麗な人、だと思った。

「すみません、本を読んでいたので前を見ていませんでした。」
「あ、いや、こっちこそごめんなさい。ぶつかっちゃって」

ボクから見て左側の人は驚いた様子も薄く、すぐにボクと目を合わせてくれた。驚きです。でもその隣の人は驚きすぎて口が開いている。悪いことしましたね。すみません。
ふ、と二人の手元を見ると生物の用意。あ、今昼休みですし、次移動なんですかね。と思ったが、持っていた時計を見るとチャイムの鳴る5分くらい前。そろそろヤバくないですか?コレ。でも、話してるし気づいてなさげですね。言った方がいいですかね。と思ったボクは、また二人を驚かさないようにできるだけ控えめに声をかけた。漆黒の瞳と目があう。

「次、移動…ですよね。多分急いだ方がいいと思いますよ」
「え…ぅわっ、千代ちゃん」
「もうそんな時間?まー大丈夫。間に合う間に合う」

千代ちゃんと呼ばれた少女は大分マイペースな人みたいだ。黒髪の少女も焦った様子から半ば諦めたような表情をして目を伏せ、ため息を零した。
あ、睫毛長い。切れ長の、けどやる気のなさそうな目元に漆黒の瞳。同じ色の、肩までのサラサラした髪。スラリと高い、でもボクより低い背、髪をかきあげたときに髪の間からのぞく白く細い指。何でこんなに目が離せないのか、自分でもわからない。少しボーっとしているといきなり少女がこちらを向いて目があった。ちょっとビックリしました。

「ぶつかっちゃって本当ごめんなさい。あと時間、ありがとう」

そう言ってふわりと微笑んでくれる彼女を見て、ボクは自分に違和感を覚えた。でも、それは気のせいだと納得させて

「いえ、気にしないでください。じゃあボクはこれで」

と言い、彼女の脇を通りすぎた。瞬間、香った彼女の香りに敏感に鼻が反応して、違和感は募るばかりだ。

続きを読もう、とページを開く。でも目が文字の上をすべるだけで頭に入ってこない。ダメだ。また後にしよう、と本を閉じ…

「……あれ。」

閉じれなかった。栞がない。本をパラパラと開き確認する、がない。ポケットを探ってみる、ない。落とした、んですね。残念です、気に入ってたのに。

読み掛けの本に指を挟み、教室へと足を進める。


授業開始のチャイムが鳴りはじめた。







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