きまぐれ猫とキセキ。

□side You
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あれから数日経った昼休み。凪は購買に来ていた。いつもお弁当を作っている凪が寝坊したため今日は家族全員昼は外食(?)である。


「(悠哉と奏、お昼どうしたかなぁ…)」


周りを見渡しても姿が見えない同じ中学に通う双子の弟と妹の心配をするが、今は自分のお昼ご飯の確保が先だなと思いなおして前を見据える。が、人だらけで気持ちが萎えてくる。

行くしかないよねぇ…

ため息をつき、人の壁へと足を進めた。






「疲れたぁ……」

「お疲れー。今日は特に混んでたねぇ」

「…ついてないなぁ…」


ため息をつきながら購入したばかりのパンの袋を開ける。千代はそんな凪の至極疲れた顔を見てくつくつと笑った。

春、気候も良好とあって凪たちのいる中庭はポカポカと気持ちのいい陽気だった。早々に昼食を食べ終わり、とりとめのないことを話していた千代たちだったが、一人の少年の介入で中断された。


「あ!」

「へ?」


突然聞こえてきた大きな声に二人はそろって後ろを振り返った。そこにいたのは驚いた顔をした金髪長身の男の子。

どこかで見たことあるような…。既視感を覚えた凪は顎に手を当て、脳をフル回転させて記憶を整理する。


「あ、階段の」

「覚えてたのそこっすか!!」


ぽん、と手をたたいて言う凪に少年はガーンと効果音が聞こえるような反応を返した。そんな二人のやりとりを見ていた千代は呆れたように凪に話しかけた。


「凪、あの黄瀬としりあいだったの?」

「うん、階段から落ちそうなところを助けてもらった」

「ああ、あの時」

「それより、あのって?」


そう凪が問うと千代は心底呆れたような顔で、そうか。あんたは興味ないか。と言って説明してくれた。


「モデルでバスケ部の黄瀬涼太って知らない?」

「……ん?聞いたことあるかも」

「……。」

「まあうちのクラスはファン多いから聞いたことはあるでしょーね。あれがその黄瀬涼太」


凪は黄瀬の顔をまじまじと見た。見られている黄瀬は心なしか気まずそうだったが、凪は気にすることなく黄瀬の顔を見つめ続けた。


「ふーん、かっこいいね」

「!」

「反応薄ぅー」

「だってモデルとか言われても興味ないし。モデルだろーが芸能人だろーが同じ学生でしょ?」

「まあ、そうなんだけどね」


真顔で容姿を褒められた黄瀬はほのかに頬を紅潮させるがまったくの素で言った凪は千代と話し出した。


「あ、あの」

「ん?黄瀬くん?だっけ、何?」

「あ、黄瀬涼太っす。これ…」

「え、あぁ…別によかったのに。ありがとう」


おずおずと控えめに話しかけてきた黄瀬に反応して顔を向けると、すっと差し出されたハンカチ。洗濯はもちろんアイロンもかけてあるようで、その心遣いに自然と笑みが浮かんだ。


「凪、昼休み終わるよ」

「やば、帰ろっか」

「次なんだっけ?」

「世界史?」

「あー…」

「ちょ、っと待ってほしいっす!」

「ん?」


そのまま教室に帰ろうとしていた二人(千代は一瞥しただけで足は止めなかったが)は黄瀬の声に足を止めた。


「あ、の。えっと、名前…教えてほしいっす」

「あ! そういえば庇ってもらったのに自己紹介もしてなかった。ごめんなさい」

「いや、別にいいっすよ」

「ありがとう。私は成沢凪です。よろしくね、黄瀬涼太くん」

「あ、はい!よろしくっす!」

「ふふ、なんで敬語なの?」

「あ」

「タメでしょ?普通に話してよ、じゃーね黄瀬くん」


踵を返して駈け出そうとしたが再び黄瀬に呼び止められたのでぱっと振り返った。


「名前で呼んでほしいっす!」

「へ? あぁ、了解。じゃーね涼太くん」

「またね、凪っち!」


――っち?

頭の片隅にひっかかる一語をそのままに、教室への道を急いだ。

小走りで教室へ帰る道中、凪はもんもんと考えていた。

金髪長身、人懐っこいけどどこか作っている笑顔、名前に「っち」をつける呼び方、モデル、バスケ部、黄瀬涼太



「……げ」


あー、やっちゃった。黄瀬くんじゃん。黄瀬ちんじゃん。



「注意力散漫だなぁ…」



遠い昔にちょっと読んだだけの原作。そろそろ記憶からも薄れてきて、ぱっとキャラかそうじゃないかなんてわからなくなってきてしまった。

正直に言うとキャラを避けるのがめんどくさくなってきてしまった。なんかもういいかなぁ関わっても。


あ、でも関わったら平穏な生活なんかできないだろうし…


「…もう、どうしていいかわかんないよ」





金髪ワンコと猫の出会い。



だってもう、関わってしまったから。


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