きまぐれ猫とキセキ。

□side He
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あれから数日、俺はモデルの仕事が入ってしまって学校にこれていなかった。
本当ならあの女の子を見つけだして、いろいろと話したいと思っていたのに。


「(まあ、今から見つければいいって話っスけど)」


ということで、今校内を探し回っているのだが。


「黄瀬くーん!」
「えっ、黄瀬くん!?」
「わっ本物だ!!」
「きゃー!!」
「かっこいー!」


中庭に差し掛かったところでいつもようのように女の子たちに囲まれてしまった。なんせ自分は人気モデル。変装もせずに外をうろつけばこうなることは必須。失敗だ。内心うなだれながらも顔には営業スマイルを貼り付け、なんとか触ろうとする女の子たちに手をさしだしていく。


「(昼時なのに、皆お昼食べなくていいんスかねぇ)」


そう。今は昼休み。この時間を逃してしまえば空腹を満たすのは難しくなってしまう。自分の周りに群がっている女の子たちは昼食をとらなくてもいいのだろうか。

なんてことを黄色い悲鳴の中ぼんやりと考えていた黄瀬だが、聞いたことがあるような声が耳に届いた。


「急げって奏!パンなくなるぞ」

「わかってるよ!もう、お姉ちゃんのお弁当食べたいー!」

「しょーがねーだろ!姉ちゃん珍しく寝坊したんだから」


テンポよく行われる言葉のやりとりに、黄瀬は少し見入った。似たような声を聞いたことがあるような。そんな既視感に似た感覚をかんじながら、双子と思われるその兄妹を見つめていた黄瀬だったが、その双子が走ってくる方向にちょうど自分たちがいることに気がつき、避けようとした。だが自分の周りには多くの女の子。双子の方もこちらを見ておらずこのままだとぶつかってしまう。
そう考えた黄瀬は一番危ない位置にいた女の子の手を引き、自らが双子にぶつかりに行った。


「ぅわあっ!?」
「いって!!」
「ぉっと!」


勢いよくぶつかった双子を支えきれずに下敷きになるかたちで受け止めた黄瀬。黄瀬の腕の中には側頭部や鼻の頭を押さえて呻く双子。


「大丈夫っすか?」

「だ、いじょうぶです」

「いってー……すみません、前見てなく、て……って黄瀬涼太先輩じゃん。すげー、本物だ」

いち早く痛みから立ち直った男の子が黄瀬を見て目を見開いた。男の子に倣うように女の子も黄瀬をみて感嘆の声をあげた。


「おぉーほんとだ。かっこいいね悠哉」

「奏はきょーみないんだっけ」

「うん」

「つまんねー、きゃーとか言っとけよ」

「きゃー」

「棒読み…」


自分の上に乗っかったまま平然と会話し始める双子(悠哉と奏というらしい)に黄瀬は呆然とした。というか、また既視感ににたような感覚。自分はこんな感じをどこかで体験したことがある。
考えにふけっていた黄瀬だったが、再び双子が騒ぎ出したことで意識を浮上させた。


「「あぁっ!!パン!!」」


見事なハモリで当初の目的を叫んだ双子はわたわたと立ち上がった。


「やっべ忘れてた!」

「なくなっちゃう!なくなったら」

「「昼ご飯抜き……!?」」


サーッと効果音が聞こえてきそうなほど顔色を青色に変化させ、顔を見合わせた後にさっと服のほこりを払った。


「いくぞ奏」

「おっけい!あ、黄瀬先輩ぶつかっちゃってすみません。お怪我ありませんか?」

「へ、あぁ大丈夫っす」

「ホントっすか?とりあえずこれで土とかとってください。じゃ、」

「「ありがとうございました!」」

「え、ちょ、これ!」


マシンガントークさながらの勢いで言葉を紡いで、有無をいわさず黄瀬の手にハンカチを握らせた双子は、ぺこりと頭を下げた後風のように去っていった。

その場に残された黄瀬は、ポカンと双子が去っていったほうをみつめるのだった。


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