きまぐれ猫とキセキ。

□side You
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授業が終わってむかえた放課後。手早く荷物を片付けて鞄を背負い、家路についた。弟と妹の教室にケーキを渡しに行こうかとも思ったけど、入れ違いになってもめんどくさいし、帰る家は一緒なんだから家で渡せばいいや、という結論からの行動。

そうとなれば急ぐ理由もなく、のんびり足を動かした。今日の夕飯は何かなぁ。冷蔵庫にキャベツがいっぱい残ってるから回鍋肉かもなぁ。あ、あの雲変な形。と、今日の夕飯に思いを馳せながらぼんやり空を眺めつつあるいていた。

それが、いけなかった。


「ぐぇ」

「ぅわっ」


なにか、踏んだ。


「え、あ、人!?すみません!大丈夫ですか!?」

「痛い……」

どうやら木の影に隠れて人が寝ていたらしい。それに気づかなかった私がみぞおちを思いきり踏んでしまったようだ。体を縮こまらして痛がるその人はずいぶん背が高いらしい。うずくまっていてもわかるほど体が大きい。

「あああほんとにすみません、立てますか……?」

「んー、みぞおち痛いけど大丈夫〜」

「よかった……」

ゆっくりと緩慢な動作で立ち上がった彼をなんとなく眺めていると、その想像以上の身長に口をぽかんとあけてしまった。

「どーしたのー?」

「あ、ごめん不躾に。背が高いなと思って」

「あー、なるほどね〜」

別に気にしてないけど〜と言いながらお腹をさする紫色の髪の彼を見上げ、中学生なのに大きい子は大きいんだなぁとしみじみ感じていた。あ、やだなおばさんみたいな感想。

「踏んじゃってごめんなさい、ほんとに大丈夫?」

「んー、今はもう痛くないし大丈夫〜」

「よかったぁ………」

ほっと一息ついた。怪我でもさせてたらほんとにどうしようかと思った。凪が胸を撫で下ろしていると、目の前の彼がねぇ、と声をかけてきた。

「それよりあんたさぁ」

「はい?」

顔をあげてみると予想以上に近い距離に思わず肩が揺れた。凪の様子を気にもとめていない彼はすんすん、と鼻をならしながら凪の鞄のにおいをかいでいる。

「なんかお菓子持ってる〜?いいにおいする」

「あ、調理実習で作ったやつが……」

「ちょーだい」

「え。」

うちの双子にあげようと思ってたんだけどなー、でもなんかじっと見られて待ってるし、それにこれがお詫びだと考えればこのケーキくらいあげなきゃ。それにこれくらいなら家ですぐに作れるし……

「じゃあ、このチーズスフレはお詫びってことで」

「それでいいよ〜」

「二つあるけど、どっちもいる?」

「ほしい」

「ん、どうぞ」

鞄の中から簡単に包装されたチーズスフレケーキを取り出して目の前の彼に渡す。ありがとーと言いながら早速包装をほどき、チーズスフレが口に納められていくまでをぼんやり眺めた。

味見はしたから変な味はしてないはず。うん、大丈夫。

自分の作ったものを初対面の人に目の前で食べられるという、変に緊張する状況のなかドキドキしながら待つ。なぜ待っているのかわからないが、立ち去るタイミングを逃したのだから仕方がない。こうなれば感想を聞いてから帰ろう。そうきめて体の力をぬいて感想をまった。

「ねぇ」

「ん?」

「これあんたが作ったの?」

「え?うん、だいたいそうだね」

ふーん、という彼を見ながら調理実習での様子を思い出した。隙あらば楽をしようと勝手に材料をぽんぽんいれたがる千代ちゃんをとめつつ、自分も作業しながらあれとこれ入れて混ぜて、終わったらこれに入れて、と周りの子に指示をだしつつ様子をみて、と。うん、だいたい間違ってない。主に作ったのは私だし。

「超おいしい」

「へ?」

「買ってきたやつみたいだし」

うまー、と言いながらはやくも二個目のチーズスフレを食べている彼をみて、ようやく感想が脳まで届いた。

あ、いま美味しいって言ってくれたのか。しかも買ってきたやつみたいだつて。

じわじわと嬉しさがこみあげてきて、頬が緩むのがわかった。

「へへ、ありがとう」

美味しいっていってくれたらあの時の苦労が報われるよねー、うん、あげてよかった。ほっこりした気持ちになっていると、ねぇ、と声をかけられた。

「名前はー?」

「わたし?」

そー。と言ってじっと見つめてくる彼の視線にたじろぎながらも「成沢凪、です」と答えた。どもったのはご愛敬。

「ふーん、お菓子ありがとー」

「ううん、踏んじゃったお詫びだし。美味しいっていってくれて嬉しかったよ」

ありがと、と伝えると彼は少し視線をそらして頬をかいた。

もしかして、照れてる?今までのなんかちょっとそっけない返事とかも照れかくしだったりする、のかな?え、それってすごい可愛いんだけど。

「なに笑ってんの」

「ふふ、なんでもない」

くすくす笑ったままでいると、いつまで笑ってんの、と少し拗ねたような声でとがめられてしまった。

「ね、君の名前は?たぶん同じ学年だよね?」

「おれー?紫原敦。2年」

「紫原くんか。これも何かの縁だし、これからよろしくね」

うんー、よろしくー、という紫原くんに笑顔をかえした。

あれ。すごい背の高い、紫色の髪の、紫原敦………?
あ、あーーー、むっくんだ。なるほどな、お菓子大好きな大きな子供だ。なんか最近キセキとよく会うなぁ。

うんうん、と内心感心していると、紫原くんがは、となにかに気づいたように目を瞬かせた。

「あ、やべ。部活忘れてたし」

「え!結構時間たってるよ!?」

「赤ちんに怒られる〜」

めんどくさー、と言いながら緩慢な動作で足元の鞄を肩に背負った紫原くんは、じゃあね〜と言いながら背中をむけた。

部活忘れてたって……そんなことあるんだなぁ。結構遅れてるけど、2年って次を担わなきゃいけないんだから先輩に怒られるんじゃないかな……。

とつらつら考えていると、そうだー、と言って紫原くんが振り向いた。


「またお菓子つくってねー」

「んー、機会があればね」

えー、おれ毎日食べたいんだけど〜という紫原くんに苦笑いを返した。毎日は流石に無理だなぁ、たまにならまぁ何かのついでにあげるのもできるけど。

「じゃあ、またね〜凪ちん」

「ん、ばいばーい」

今度こそゆっくりと歩いていった紫原くんの背中を見送って、私も帰路についた。

それにしても背高かったなぁ。紫色の髪も珍しかったし。迫力あった。でもなんかどこか可愛かったなぁ。


「ほんとに黒子のバスケの世界なんだ……」





大きな子供との出会い

ま、目立たず長生きできればなんでもいいや。
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