Trip梯

□05
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「成沢凪か?」


突然目の前に現れた上忍と思われる忍。私は驚いて「……はい」とマヌケな顔で返事してしまった。


「君のご両親が……」

「………え、?」


さっきまで晴れていた空はどんどん暗くなり、雨が降り出した。
上忍に連れられて来た一室。とめる上忍を押し切り中に入ると、二つ並んで置かれているベッドに横たえられている父と、母だった遺体。それは、血でまみれていた。

任務だったらしい。上忍の父を隊長に、医療忍者の母も同行した上ランクの巻物護送任務。
急な敵襲にあい、戦闘になって、そして…。隊の他のメンバーは、重症の父と母を抱えて生還。任務は無事成功し、重軽傷を負った人もいたものの皆無事だったとのこと。


「隊長は…手負いの俺達を庇って……」

「隊長を守らないといけないのに、守られてしまって…っ」


次々と私に頭を下げる忍達。こんな子供にまで頭をさげるということは、父さんは隊長としてとても良い人だったんだろう。隊員達の姿を見て凪は微笑み、小さいながらもよく通る声で言った。


「顔をあげてください。父さんと母さんが貴方達を守ることを選んだなら、それが二人にとって最善だったんだと思います。だから、皆さんは二人の分も生きてください。両親の死を一生悔やむより、この事実を受け止めて、今後このようなことが起こらないよう最善を尽くしてください。それが、両親への最高の供養になります」


隊員達は、この時の凪にみとれた。大人びた娘だと隊長はよく話してくれたが、実際に会ってみると痛感する。涙も流さず、自分達を責めることもせず、自分達のこれから先を示してくれる、優しく哀しく微笑むこの少女は、達観している。
隊員達は思った。もし、将来この少女が自分達と同じか上の立場になったのなら、この人の下につき、ついていこうと。少女には、人を引き付ける何かを持っていた。

隊員達は、再び頭を下げて出て行った。気をきかせてくれたのだろう。
凪は、ベッドの間に立ち、もう言葉を返してくれない二人に向かって語りかけた。


「こんな私を、今まで育ててくれてありがとう。愛してくれて、ありがとう。ごめんね。いろいろ伝えることができてないんだ。本当はね、私、」


続きは、言えなかった。涙はでない。悲しくないわけじゃない。何故かでない。

外から、強い雨の降る音がする。空が私の代わりに泣いてくれてるのかな、なんて思ったり。五歳になったばかりの、ある雨の日の出来事だった。


「ありがとう、大好き、だよ」



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