Trip梯

□05
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凪の両親の葬儀には、大勢の人が訪れた。同僚、部下、友人、どの人も顔を歪ませ、涙を流していた。
そんな中、遺影の前に座る凪だけは無表情だった。普段からあまり感情を表にだすことの少なかった彼女だが、今日はそれが際立っていた。葬儀を取り仕切ってくれている三代目や参列した者が話しかけるといつも通り応答するが、その瞳に光はなくくすんでいた。

両親の墓を見つめるその背中は、酷く小さかった。


葬儀も終わり、参列者が続々と帰っていくなか、凪は立ち尽くしたまま微動だにしなかった。誰が話しかけても生返事しかかえさず、魂の抜けた抜け殻のようだった。

そんな凪に、火影はずっと付き合い、そこに立っていた。時たまひとりごとのように穏やかに話しかけ、根気強く待った。そして、ぽつぽつと反応がかえってきだしたころに優しく諭した。


「両親の死は、酷く悲しく重いものじゃ。しかし、それに囚われ腑抜けになってしまえば、両親の魂は我が子を心配して永遠にさ迷いつづけることになる。」

「……うん。わかってる」

「酷なことを言っておるのはわしのほうじゃが、乗り越えなければならないんじゃ」

「わかっ、てる」


返答に嗚咽がまざり、聞き取りにくくなっていく。だが火影は穏やかに言葉を紡いでいく。悲しみと後悔の渦のなかにいる凪にも届くように。


「後悔しても何も始まらん。今を生きるんじゃ」

「ぅ、ん……っ」

「お主の両親が貫いた火の意志、受け継いでくれるかの?」

「っ、……うんっ」


はっきりと大きく頷いた凪の頭を火影は優しく撫でた。凪はそでで涙を拭い、顔をあげた。


「両親をちゃんと覚えておくんじゃぞ。」

「忘れないよ、大好きだから」


絶対に記憶から消したりしない。いろんなものを私にくれた素晴らしい両親。記憶のなかでは、はじめてできた家族。

しゃがみこみ、冷たい両親の墓石に触れて目を閉じる。

もらってばかりで、なにもしてあげられなくてごめん。子供らしくない子供でごめん。隠し事いっぱいしててごめん。

産んでくれてありがとう。育ててくれてありがとう。大好きです。


「また、くるね」


両親の名前の刻まれた墓石に微笑みかけ、火影とともに帰路へと着いた




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