Trip梯
□02
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私が斬魄刀の夢を見てしばらくして、冬獅郎くんは桃と同じ真央霊術院に行くことになった。
今家の中では冬獅郎君がおばあちゃんに頭を下げている。私はと言えば家の屋根の上に寝転がってぼんやりと空を見上げていた。
「はぁ、こんなとこにいたのか」
「……あ、とーしろくん」
呆れたような表情で屋根によじ登ってきたのは少し疲れた様子の冬獅郎君。ちょっと息が切れてるのは探してくれたのかな。
「……夜」
「ん?」
ぼそりと呟くように言った冬獅郎君。夜だけじゃ何のことかわからなくて続きを待ってみる。
「ずっと寒いの我慢してたんだろ」
「あー」
「早く言えよ、馬鹿だな」
「ひどいなあ」
「馬鹿だ、ばかやろ」
苦笑いしながら冬獅郎君を見ると、口から出る言葉とは裏腹に表情からは悪かったという気持ちがびしびし伝わってきた。眉間にしわを寄せて少し悲しそうなその顔を見て私は自分の頬が緩むのを感じた。
「ん、ありがと」
私がそういうと少しだけ眉間のしわが減った気がする。
少しの間沈黙があって、それがなんとなく冬獅郎君との間に流れるいつもの心地いい沈黙じゃなくて、なんというかそわそわしてる感じがする。
「どしたの?」
「どしたのってお前……悪いかよ」
「?」
主語も何もない冬獅郎君の言葉に純粋に首を傾げていると、冬獅郎君は少し顔を赤くしながらこちらを軽く睨んだ。
「行ってらっしゃいぐらいねぇのか」
「……」
予想外の言葉にぽかんと冬獅郎君を見つめてしまう。当の冬獅郎君と言えば顔を赤くしたままぷいっと顔をそむけてしまった。
……え、行ってらっしゃいって言って欲しかったってこと?だよね?
え、え、可愛すぎるんですけど。どうしたらいい?ねえ、どうしたらいい?
「冬獅郎君」
「……なんだよ」
「行ってらっしゃい」
「……おう」
行ってくる。少しだけ微笑んでそう返してくれた冬獅郎君は凄く可愛かったです。
長期の休みにはまた顔を出しに来ると約束して冬獅郎君は真央霊術院に向かって歩き出した。私はその背中が見えなくなるまで屋根の上から見送った。
去り際に「お前も早く来いよ」と言われてばれてたか、と思って苦笑いを返した。
ま、私もすぐ後を追いかけることになるよ。待ってて。
「行ってくる」って言いにきてくれたのがすごい嬉しかったのは内緒。
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