大空と最高僧

□第六話 暖かい人達
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[Hakkai side]

綱吉が倒れた。
たまたま、喧嘩していた男の肘が綱吉に当たってしまったことが原因だとは思うが、そんなことであっさり綱吉が倒れるわけもないし、そもそも避けられないというのがおかしいだろう。
先ほど、もしやと思い熱を計ってみれば明らかに風邪を引いたとわかった。
風邪を引いた理由はおそらく、毎日のように続く野宿と襲撃。
長時間雨に打たれることもあったし、野宿に慣れない綱吉には相当つらかったようだ。
そもそも、なぜ自分達は綱吉が倒れるまでそれに気が付かなかったのだろう。
それが腹立たしくて、仕方がなかった。
そして、今は宿の一室。
綱吉が倒れたのは街中でのことだったので、大事にならずにすんだ。
その辺りは本当によかったと思う。

「…ツナ、具合悪いんだったら悪いって言えよな」
「迷惑かけたくねぇとか思ってたんじゃねぇの?…そんなこと、ねぇのにな」

そういって、ベッドで眠っている綱吉を見つめる。
苦しそうに息を荒げ、その表情は辛そうに歪められている。

「…綱吉は、僕等があの時引き返して、時間を食ったことを申し訳なく思ってるんじゃないでしょうか」

そもそも、僕達があの街に引き返したのは綱吉がいる街が襲われているからであり、他に意味はなかったように思える。
勘の良すぎる彼のことだからなんとなく、無意識のうちにでもそのことに気づいているのではないだろうか。
自分の為に足止めさせて、迷惑をかけて。
それがわかっているから、迷惑をかけまいと具合が悪いことも、何も言わなかったのではないのかと。

「……結果的には、ぶっ倒れられるほうが迷惑だがな」

三蔵は小さくはぁとため息をついて言うと、急に席を立った。

「三蔵、どっか行くのか?」
「これ以上、この部屋に居たとしても、ソイツは良くならねぇだろうが。八戒に任せておくのが一番手っ取り早いだろう」
「…ま、そりゃそーだ。じゃ、八戒、後は頼んだ」
「わかりました」

そういって、三人は部屋を出ていき、部屋には僕と綱吉だけとなる。
ジープはどうやら悟空と寝るらしく、今しがた廊下へと出ていってしまった。
だから部屋には二人。
こんな形で二人きりになるとは全く思っていなかった。

「…どうして綱吉は、そんな無茶をするんです?」

あの街でも、たった一人で様々な人を救ったが、そのために大怪我を負ったし、死ぬかもしれないような状態まで追い込まれた。
随分な無茶だ。
"誰かを守りたい"その思いこそが綱吉の強さだとわかってはいるが、今回のようなことはやめてほしい。


綱吉が倒れたのを見た瞬間。
心臓が止まるかと思った。
悟浄は喧嘩をしていた男に殴りかかり、悟空は綱吉の名前を叫び、三蔵はただ冷静にこの状況を納めようとしていた。
僕は、呆然と立ち尽くすしかできなかった。
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