その教師、ドSにつき。
□第1話
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「やっぱり学生って気楽だよね……」
ぬくぬくとコタツの中で寝転びながらポテチを口いっぱいに頬張り、大好きなお笑い番組を見ながらケラケラと笑う。
はぁ……なんて幸せなの。
でもね。
いよいよ来週の新学期からは高3。
いつの間にか、またやって来た受験生という名目。
この間、猛勉強してやっと高校生になれたと思えばまた憂鬱な時期がやってくる。
「だから楽しめるのは今だけなんだって!」
「これ、由奈!またそんな所でゴロゴロして」
「おばあちゃん!」
バサっとこたつ布団を捲られ、せっかく温まった空気が逃げて行く。
あぁぁー私の大切な温もりがぁぁっ!
あ、紹介します。
今、まさに私の緩やかな一時を剥ぎ取ったのは私の父方の祖母で酒井芳江と申します。
おじいちゃんが亡くなってからは、この自宅隣のアパートを経営して生計を立てているの。
で、どうして私がおばあちゃんちで寛いでいるかって?
実は、私のお父さんは去年から海外赴任をしておりまして。
「一度海外に住みたかったのよねぇ」なんて目をキラキラさせたお母さんと二人、現在はアメリカに住んでいるの。
私も一緒に連れて行きたかったみたいだけど、私はこっちの友達と離れるのが嫌だったし、第一、英語の成績なんて2だよ?無理でしょ、マジで。
ちょうど、今通ってる高校がおばあちゃんちの近くだった事もあり、私はここで居候生活をしてるって訳。
「由奈、お客さん来たみたいだよ。一人で無駄話してないで出ておくれ」
や、無駄話じゃないし……。ここ重要ポイントだよ、おばあちゃん……
とりあえずお客様を待たせる訳にはいかないからね。やれやれどっこいしょっと。
なんか私……おばあちゃんと暮らす様になってから年寄りくさくなった気がするんですけど。
えーっと。それはさておき、この時間帯に一体誰よ?って言っても真昼間なんだけどさ。
近所のオバチャンが回覧板持って来たとか?
いやいや、新聞屋のおっさんが要らん粗品持って勧誘の線が強いな。
待てよ。気前の良い親戚からカニが届いたりして!
そしてそれを持って来た宅急便のお兄さんがイケメンとかっ!
一人で妄想ぶっ放した私は勢いよく玄関の戸を開けた瞬間……本気で絶句した。
サラサラとした髪に漆黒の瞳と高い鼻筋、何と言っても妙に色気のある唇がとても印象的だった。
冗談でしょ??なに……この、イケメンっ!!どちら様??
私の視力が正常ならば、今、目の前に立って居るのは紛れもなく世の中のカッコイイと呼ばれる部類に入るイケメンだった。
「おい」
「は……は、はいっ!?」
「芳江さん、居る?」
「よ、芳江さん??……あ、おばあちゃんなら、はい!」
緊張の余り、良く分からない日本語で応対する私。
なんだよ、おばあちゃん……一体いつ、こんな素敵な方とお知り合いになったのよ!
とにかくおばあちゃんを呼んで来ようとクルリと身体の向きを変えた時だった。
何かが引っ張られるように足がもつれたと思えば、目の前に迫ってきた廊下の板目。
ビッターンッッ!!
緊張していた私は足元が覚束ず、だらしなく腰パンしていたスウェットの裾部分を反対の足で踏んづけたらしく、見事に上半身が廊下に叩きつけられた。
「いったーぃ……」
痛さと恥ずかしさが込み上げる。
やばっ!早く起き上がらなきゃ……!
痛いのを堪えながら必死に立ち上がった私に、後ろからクスクスと笑い声。
ちょっ……!笑うとか有り得ないんですけど!
思わず振り返って睨み付けた私に、そのイケメは口を押えながら言った。
「おまえ……思いっきりパンツ見えてるぜ」
「へっ……?」
そのままゆっくりと視線を下に落とせば、ずり落ちたスウェットからチェック柄にクマさんのパンツが覗いていた。
「ぶっ……!チェックにクマとか……っ!ありえねぇー!ぷははっ!」
「い、い……っ!いっやぁぁーーーーー!」
全速力で部屋に引きこもった私は、そのイケメンが私の人生に大きく関わって来る人だなんて……
その時は思ってもみなかったんだ。
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