Boy's love story
□誰が為にゴングは鳴る[前編]
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「忍くんを俺にくださいっ!」
小声で叫んだ(?)俺は、フローリングの床に正座して額を床に擦りつけんばかりの土下座をした。
顔だけ上げると、マヌケ面の吉武綾人(17歳)が姿見に映っていた。
──これじゃあ結婚の申し込みだろっ!
と、虚しく自己ツッコミをしながら俺は体を起こした。
なんで自分の部屋の床に正座して姿見を前にこんなコトをしているのかってーと、バレンタインデーにした藤沢との約束───藤沢の家に遊びに行くって日が明日だからだ。
まぁ、普通に男友達の家に遊びに行くなら、こんなバカげた予行練習なんて必要ないんだが、そうもいかない事情がある。
なせなら、藤沢の母親が俺と藤沢の関係を知っているから!
そんなワケで、俺は『息子の恋人』として藤沢家に『ご挨拶』をしに行くんだ。
17歳にしてこんな経験してるヤツなんて周りにいないから、誰にも相談できねーし、俺はバレンタインの甘い記憶の余韻に浸る暇もなく、ここ数日はレポート用紙とにらめっこで『ご挨拶』を考え続けていたのだ。
床に散らばったレポート用紙には、さまざまな『ご挨拶文』が殴り書きされている。
『忍くんとお付き合いしてます』
『忍くんとのお付き合いを認めて下さい』
『忍くんの恋人です』
エトセトラ……。
──どれもこれも言える気がしねぇよ……。
正座していた足が痺れだし、俺はそのまま床に大の字になって寝ころんだ。