Single story
□Reserve
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「やはりキミに直接交渉して正解だったな。 筒井君、キミは非常に優秀な秘書だ。 キミの会社の東條社長はやり手だが、融通がきかんところがあるからな」
「……ありがとうございます」
──タヌキ親父が!
俺は心の中で毒づいた。
俺が取引先の社長室で、俺の体を這い回るこの虫酸の走るようなタヌキ親父の視線に耐えているのは、我が社の将来を左右しかねない重要な契約のためだ。
大手の特権で競合他社の存在を匂わせ、契約を渋る崎山社長が内密に出した条件は、俺がこのタヌキ親父の“オモチャ”になることだった。
「ここに1人で来た──ということは“交渉成立”と考えていいのだろうね?」
「……はい」
「では、今夜にでも部屋を用意しよう。 その前に、今ここでキミの承諾を確認させてもらおうか」
と言って、崎山は両手を広げて俺を招く。
意を決して俺が一歩足を踏み出したとき、社長室の扉が乱暴に開き、崎山の秘書が飛び込んできた。
「なんだ!? 呼ぶまで入って来るなと言っただろう!」
「も……申し訳ありませんっ、社長。 実は……」