Single story
□革靴と貴方と俺
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『外回りの営業にとって、靴は大事だぞ』
新入社員研修が終わり、配属されるやいなや指導係の先輩にそう言われた俺は、靴を探してファッションビル街を彷徨い歩くこと1時間。
俺がたどり着いたその店は、近代的なビルの谷間にあって、そこだけ古い外国の映画から抜き取ったような雰囲気を醸し出していた。
アンティークショップと見間違えるようなウインドーには、オレンジ色のライトに照らされた革靴が、優しく艶めいていた。
──きっと、オーダーメイドとかの店だよな。
春から社会人になったばかりの俺には、およそ無関係な店だ。
そんなことを思いながらウインドーをぼんやり眺めていると、飾られた靴の向こうにいた店主らしき男と目があってしまった。
メタルフレームの眼鏡をかけたその男は、口元に優しい笑みを浮かべて軽く頭を下げた。
その仕草のひとつひとつが、英国紳士を思わせるように優雅で、目を奪われてしまう。
俺は無意識に店の扉を開いていた。
カランコロンと店内に鳴り響くドアベルの音色に我に返ると、俺は途端に後悔した。
──場違い……だよな、俺。