Single story
□さよならの向こう側[前編]
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月の光も星の瞬きも、分厚い雲に覆われて、重苦しい闇に包まれている。
住宅街の細い道には、ぽつりぽつりと薄明かりを灯す街灯が、頼りなく道を照らしている。
生ぬるい風が頬をかすめ、纏わりつく蒸し暑い空気にじんわりと汗がにじむ。
いかにもオバケが出てきそうな雰囲気だが、俺の足取りは軽やかだ。
なぜなら、バイトを終えて家に帰るこの時間は、俺がもっとも好きな時間だから。
別に暗闇が好きってワケじゃない。
この暗闇を抜けた先に、サイコーの瞬間が待っているから───。
†††
高校の3年間、俺はクラスメイトの渋谷への片思いに費やした。
それは、俺が特別にオクテだからというワケでもなく、ただ好きになった相手が男だったから。
別に「心は女」ってのじゃない。同じ男としての憧れって意味でもない。
好きになった相手が、たまたま男だった───それだけのことなんだが、俺だってこの答えにたどり着くまでにかなり悩んだんだから、告られる側の渋谷の方も困るだろうと思って、片思いに徹していたんだ。
渋谷の傍にいて、普通の顔をしている自信なんてなかったから、友達にすらなれなかった俺は、いよいよ卒業って時になって思ったんだ。
このままでいいのか?───って。