大切なことなので二回言います

□序章 sideA
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「なあ、翔太」

クルッと振り返ってそう聞いてくる親友に適当な返事を返した。

「何だよ連れねーな」

親友はまたクルッと振り返り前へ向き直る。
俺は居たくてここに居るんじゃないと少し茶色がかった短髪の頭を睨むように見、溜め息を吐いた。

親友─伊吹大輔(いぶきだいすけ)と俺は世間一般で言う幼なじみだ。
保育園、小学校、遂には中学まで同じの腐れ縁だ。
家が近所で自然と仲良くなっていったのはいい。
が、何故中学まで一緒なんだと思う。
俺の通っている中学はこの辺でも有名な学校だ。
その名も私立宮城学園。
立派な名前だ、宮城と書いて「くじょう」と読むのだ。
この学校は私立で小学校の時に受験をしないと入学出来ない。
しかも、エレベーターなので高校も受験はできるが基本的にはそのまま高等部への持ち上がりである。

少し遅れたが今俺達はその宮城学園にいる。
ただ居るだけならなんの問題も無い。
だが、俺達がいるのは夜の学校だ。
何をしに夜の学校なんかに居るのかというと、肝試しをする為。
若い頃というのはくだらないことばかり考えつく、これもそのくだらないことの一つ。

* * *

今日の昼過ぎ。
俺は家で何をする訳でもなくゴロゴロとしていた。
そんな中、一本の電話が鳴った。
ウチは俺と祖父の二人暮らしでその時は祖父は出かけていて家に居るのは俺一人で自然と電話に出るのは俺だった。
暑い中歩いて受話器を取りに行くのをうざったく感じながらも出ない訳にもいかず足取りは重いがノッソリとソファーから起き上がった。
ズルズルと足を引きずり受話器を取る。
聞こえてきた声は聞けばすぐに誰か分かる奴の妙に陽気なそれだった。

「ハロー翔太ァ、元気ィー?」

「何か用か、大輔」

「いやー夏休みなのに家でゴロゴロする以外やることの無い可哀想な翔太クンは何してるのかなと」

俺はそれが大輔のものだと分かると不機嫌なのを隠しもせず用を聞いた。
普通の奴ならそれで少しは話すのを躊躇うだろう。
普通の奴ならな、生憎コイツはそう簡単には引き下がったりしない。
それは俺が一番よく知っている事だ。
しかもコイツは俺のことをけなしながら聞いてきて。
俺はそれにまた不機嫌ゲージを溜めていく。

「そんなあなたに朗報です!」

大輔はどこかの通販の会社の社長を真似て甲高い声で言う。
イライラするがコイツのこういうことは今に始まった訳では無いのでもう不機嫌ゲージは貯まらなくなった。
コイツに対する若干の諦めによってな。

「今日の夜九時、学校に集合」

「はあ?何でだよ」

俺がそう言っても大輔はいいからいいからと話してくれない。
電話はそのまま切れてしまい結局教えてもらえなかった。

夜八時、俺は五時頃帰ってきた祖父にちょっと出掛けてくると言って家を出た。
大輔が呼ぶからには何かあるんだろうと一応は学校へ行ってみることにした。
祖父はこんな時間にどこへ行くんだと最もなことを聞いてきたが俺が大輔と近くのコンビニで立ち読みでもしてくると言うとすぐに納得して外出を許してくれた。
祖父は大輔の名前を出すと大抵のことは許してくれる。
何故だか分からないが祖父は大輔のことを信用しているのだ。
あんな常時テンションの高い奴のどこが信用できるのか俺には分からないが。
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