大切なことなので二回言います

□序章 sideB
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「あー暑っ」

立派な日本家屋の廊下で中庭に足を投げ出しながら少年はぼやく。
池には鯉が数匹少年とは間逆で気持ちよさそうに泳いでいた。
黒髪の猫っ毛が縁側から入る僅かな風で揺れる。
それを少年─佐伯陸(さえきりく)は手で櫛を作って整える。
猫っ毛は綺麗に髪型をセットしてもすぐに崩れてしまうのが難点で陸はそんな自分の髪質が嫌いだ。
それでも髪が崩れるのは嫌なので丁寧に整える。

「陸、煩い」

陸は後ろから聞こえてきた声に振り向く。
そこにはいやって言う程見慣れた三人の姿があった。
陸に文句を言ったのは背中の真ん中あたりまで伸びた髪をポニーテールにした少女─布田澪(ぬのだみお)だった。
その澪の右隣、陸から見たら三人の中央にいる、陸とは違いストレートの髪でショートカットなのは伊藤仁(いとうじん)だ。仁は少し呆れたように溜め息を吐いて。

「暑いって言うと余計に暑くなるだろ」

「しゃあないやん、陸バカやし」

「うるせえ」

仁はいつも通りに冷静に陸に返す。
関西弁で少し癖のある髪を短く切っているのは木下藍(きのしたあい)。
陸はその三人に怒って半ばやさぐれて答えるが三人は全く気にしていない。
陸もそれを言う程気にしていない、これが四人集まった時の調子だから。

三人は陸を挟んで座る。
左手に仁、奥に澪、反対側の右手には藍が座っている。

「何しに来たんだよ」

陸はその三人にここへ来た理由を問う。

「何かないと来ちゃいけない訳?」

「いや、別にいいけど」

「涼みに来たん」

そんな感じで特に何をする訳でもなく只ボーッと四人で同じように並んでいた。
水面は照りつける太陽の光を反射させて所々白く輝いている。
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