海賊

□その男、海賊
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眼が覚める前、頬に感じた感触。

その感じから、ああ、また寝てる間に手を出してるんだ、と思った。
お金で買われる俺たち花魁は買い手のやることに文句は言えない。
もとより面倒ごとの嫌いな俺は何をされても特に文句なんか言わないから、寝ている間に勝手に手を出されることなんかよくあることだった。

だから目が覚めたとき目の前にいるこの男はお客さまだと認識したんだけど…。


(……変だな。こんな人相手にしたっけ…?どこかで見覚えあるんだけど……)

ふと感じた違和感に首を傾げつつも高緒はため息をついているその男の首を引いた。

「…っ、!!?」

目を見開く男を一瞬見やると高緒は瞳を閉じ男の唇を喰んだ。


「………」

(……この人、すごい具合悪そうな顔してる……)

一瞬みた男の顔は血色が悪く、暗いグレーの瞳の下には濃い隈が刻まれていた。
抵抗の無い唇にそのまま舌を差し入れると、初めて男の声が聞けた。

「…っ、!!? ん…っ」

吐息の混ざったその声は微かに官能の意を含んでいて、高緒もつられて熱を帯びる。

『…ん、…ふ、ぅ……』

指通りの良い短髪に指を絡め、しばらく男の唇を味わった。

「…っく、おい……!」


『…んー…?』

苦しそうに逃げる舌にやめなきゃいけないんだとわかったけれど、思ったよりこの人とのキスは気持ちよくてやめ難くて、名残惜しく下唇に吸いついた。

ゆっくりと離れるとなぜか息を呑むようにして目を見開く男が瞳に映る。

『……れ、おにーさんホントにお客さま…?』

改めて見るとやっぱり覚えがなかったから尋ねてみる。

「生憎と俺は客じゃねえ。医者だ。」

『…医者?おかしいなぁ、確かに撫でられた感触がしたんだけど……。俺のことあんなに優しく撫でるのなんてお客さまくらいだから間違えちゃった。…ごめんね?』

やっぱり勘違いだったみたいだ。あんまり申し訳なく思ってないけれど一応謝っておく。


…見覚えはあるんだけどなぁ…?



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