暴彼
□弱虫バニー.2
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ふ、と浮上した意識の先、ベッドに備え付けられた天蓋をぼーっとみつめる。
『……どこ?』
しばらくぼんやりしたあと、昨夜の記憶が鮮明に蘇った。
がばっと起き上がり部屋に置いてあった鏡台へとかけよる。
『っ!』
首元には紅く腫れた痛々しい噛み跡…。
『…夢じゃ、なかった…』
(教会のお務め先で吸血鬼に齧られるなんて…わたしもしかしてもう…)
シスターに、なれない…?
じょぱっ、という勢いで涙が溢れる。
吸血鬼に噛まれたという事実よりも育ててくれたシスターへの罪悪感が辛かった。
しばらくぐずぐずと鏡の前で涙を流しようやく少し落ち着いた頃、ふと恐ろしいことに気づく。
(あれ…わたし昨日、着替えて…)
ないはずだ。恐怖に失禁という思わぬ羞恥を晒したあとこの部屋に連れてこられ、すぐさま吸血で気を失った…となれば。
『……どして、パジャマ着てるの?』
自分で着ていない=誰かが着せたということ。
ミウははっとしてパジャマの裾を捲った。
『ーーーーーーーっ!!!!!』
昨日は履いていなかった白いフリルの下着がしっかりと履かされている。
『…ま、ま…まさか…』
スバル、くん…?
ぐあっと急激に体温が上がるのを感じた。鏡に映る自分の顔が真っ赤になっており、ミウは両手で頬を包んだ。
(いや、ないない…きっと昨日の女の子が気づいて替えてくれたんだそうに決まってるよ!そうじゃないと…)
恥ずかしさに耐えられないっ!!
ミウは無理矢理に納得し、涙目のままもそもそと着替えるのだった。
がちゃ。
着替え終わり部屋を出る。先程見た時計によると時刻は17時。随分と長い間寝てしまっていたようだ。
『…それだけいっぱい吸われたのかな』
貧血を起こすのは初めてだった。しかし今はもうすっかり体調が戻っている。元々怪我の治りなども早かったミウは特に気にしなかった。
『それよりも、お腹空いた…』
くぅぅ…と切なく鳴る腹部をさすり、きょろきょろと廊下を見渡す。
(キッチンって、借りてもいいのかな…というかどこにあるんだろ…)
うーん、と唸っていたミウの鼻に美味しそうな匂いが掠めた。
『…?これは、』
(シチューの匂いだ!)
ミウはその匂いに引き寄せられるように見慣れない廊下をたどたどしく歩いていった。
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