浅夢
□月明かりの下で―後編―
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…アオ――――ォン…
「…あら? 狼さんかしら」
山賊の首領に肩を抱かれ酒をついでいた小雪が、不意に聞こえた遠吠えに手を止める。
「ふんっ、山犬だろう。…それより、酒をついでおくれ。小雪よぉ?」
酒が入りすっかり酔っ払った首領が鼻の下をのばしながら小雪の肩をいやらしい手つきで撫で回す。
小雪はそれを見事にスルーし、にこやかに首領の持つ杯に酒をついだ。
と、そこへ。
「頭ーーぁっ! えらいこった!!」
「なんだ、騒がしい」
「妖怪です!銀糸の髪の妖怪が、一匹で攻め込んで来やしたぁっ!!;」
「あぁん?たかが妖怪の一二匹、追い払いやがれ。てめぇらそれでも山賊かぁ?」
「いや、それがものっすごくつえぇんだよっ!!すっげぇ勢いで牢屋に向かってんだっ!!」
「なにぃ?」
「………」
話を聞いていた小雪はなにかを思案したあと、納得したように目を伏せた。
(…殺生丸様が来たみたいね、りんちゃん)
山賊たちが慌てふためく中、小雪は小さく微笑んだ。
一方りんは、暗い牢屋の中で先程外から聞こえた男たちの悲鳴と騒がしさに不安を抱いていた。
そこへ、見張りの男の短い悲鳴と次いでドサッという音がする。
りんは牢屋の隅にうずくまって、身体を強ばらせた。
「…りん」
上から聞き覚えのある、静かな凛とした声が聞こえる。
おそるおそる顔を上げると、そこには息を切らしながらしかめっ面で牢屋の鍵を開ける邪見と、無言でりんを見下ろす殺生丸がいた。
「っ!殺生丸様ぁっ!」
りんは瞳を輝かせ、殺生丸に飛びつく。
「これりん!!殺生丸様になんという無礼をっ!!;」
邪見が咎めるが、殺生丸は表情を変えないままふわりとりんの頭に手をおくと、「いくぞ」とだけ言って踵を返した。
りんは笑顔だったが、思い出したように殺生丸を呼び止める。
「待って、殺生丸様!一人だけ…、一人だけどーー…してもっ助けて欲しい人がいるんです!!」
「りん!!いいかげんにしろっ!!これ以上殺生丸様のお手を煩わせるでないわっ!!」
「だって邪見様っ!その人は、りんに優しくしてくれたもんっ!
…自分だって捕まっちゃってるのに、りんの心配して、大丈夫って…頭…撫でてくれたもん…」
りんは俯き、最後は消え入りそうな声になりながら訴えた。
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