浅夢
□愛しい君へ
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カチ カチ カチ カチ …
時計の音だけが聞こえる静かな部屋の中、私は自分を包む温もりを見つめた。
…もうどれくらいこうしているのだろう…
私の身体を後ろから抱き締めているのは、マリク。
彼は二重人格で、元々あった"表の人格"は紳士的で優しくて、カッコいい。
一方、後から生まれた"闇の人格"は乱暴で我が儘で野性的。加えて気に入らない人間はすぐに殺したがる。
…これは比喩でもなければ冗談でもない。
実際彼は今までに人間を…自分の父を手に掛けている。
詳しく言えば、その時に彼が生まれた。つまり生まれて即刻人殺しをしでかす危ない奴なのだ。
そんな人格を作り出してしまった表の人格には心底同情する。
…が。問題はこれからだ。
今、私の身体にしがみついているのは"闇人格"のマリク。
つまり危ない方。
そしてどういう間違いか私はこのマリクを好きだ。もっと言うと、ぶっちゃけ愛してる。
…ここで勘違いしないでほしいのが、私は別にMではないということ。
首を締められても嬉しくないし、ナイフを突きつけられてもゾクゾクなんてしない。
本当に純粋に、この男(の、闇人格)が好きなのだ。
人間とは不思議なもので、どんなに危ないとわかっていても愛しているとすんなり受け入れてしまう。
というかぶっちゃけ、私にとってこの男は、ただの甘えん坊でしかない。
誰にも懐かず、世界中の人間を皆殺しにするとまで言っていた彼は、呆気なく私に懐き落ち着いてしまっている。
今の私の心境は、さながら魔王を犬やネコと同じように飼い慣らしてしまったようなもので、もうどうしようもない。
闇の人格であるはずの彼が、ことあるごとにやれ膝枕しろだの手を繋ぎたいだの…
叫んで良いですか?
「可愛すぎるだろっっ!!」
…失礼しました。
まぁ何はともあれ、彼は私にとって愛しい彼氏なわけで。
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