夢眠

□少女と記憶
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夢の場面は突然変わり、夜空の下、後ろにスナフキンがいた。
彼はハーモニカを奏で、自分は彼に寄り添うように背を預けている。

『…もうすぐ、春が来るね…』

「………。」

スナフキンはハーモニカを吹くのをやめ、星空を見上げたようだった。

『スナフキンは春になったら、帰らなくちゃいけないところがあるんでしょう?』

「…そうだね。大切な友人達がいるところさ」

彼の声は穏やかで、聞いていると安心して…そして胸の奥がちくちくと痛んだ。

『スナフキンと一緒に旅するの、これでおしまいなんだね…』

「…元々君の怪我が気掛かりでついてきただけだしね。もう治ったし、痛みもないだろう?」

狼につけられた傷は確かにもう痛まない…けれど、まだ痛んでくれればいいのにと思う自分がいた。

(治らなければ、ずっと一緒にいてくれるのかな…)


また場面は変わり、目の前にはおおきな荷物を背負ったスナフキン。

「それじゃあ、僕はもう行くよ」

『…まって、』

歩きだそうとするスナフキンを引き止め、小さな小瓶を差し出す。
中には淡い色をした小さな砂糖菓子が詰まっていた。
シルフ族は魔法薬やまじないを込めたお菓子を作ることを生業としている。
これはまだ未熟な少女がありったけのまじないと想いを込めたお菓子だった。

『…うけとって、もらえますか…?』

差し出す手は震えていて、声はとてもか細かった。
それでもスナフキンは優しく微笑んで受け取ってくれた。

「…ありがとう。君を思い出しながら、大切に食べるよ」

その言葉が、少女の涙を溢れさせる引き金となる。


『………さみしいよ………』

「………っ、」

先程より更に小さな声で呟いた言葉と、スナフキンが少女を抱きしめるのはほぼ同時だった。


『…ぅ…、またっ、逢える?』

「……わからない…。でも、逢えたらいいなって思っているよ。」

優しく少女の頭を撫でるのは、この数ヶ月でスナフキンの習慣になってしまった行為だった。

「…だから…泣かないで、ナナリー」


スナフキンは少女が泣き止むまでの間、ずっと優しく抱きしめ続けていた。



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