夢眠
□少女と記憶
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ふと目が覚めると、岩の隙間から朝日が覗いていた。
『……スナフキン…』
起き抜けの瞳から綺麗な涙が零れ落ちる。
きっと彼に出逢うことはもう二度とない。だから優しい彼は別れ際、ずっと自分を抱きしめてくれていたのだ。
この大切な初恋は、胸の中に宝物としてしまっておく…。
少女は今一人立ちをして仲間から離れ、薬を売りながら北を旅していた。
旅の途中で噂に聞いたムーミン谷。
なんでもとても素敵なところだとか…。ちょうど薬の材料となる木の実が採れるらしいそこに、足を運ぶことにしたのだった。
『…貴方もこんなふうに、色んなところをひとりで旅して回ったんだよね…』
思い出すのは…いつも遠くを見つめる淡い薄茶色の瞳。
ねえ、貴方は今…どこにいますか?
『…逢いたいよ…スナフキン』
森を抜けるのに半日、おさびし山を越えるのに二日。
思っていたより時間がかかったが、たどり着いたムーミン谷は噂以上に美しいところだった。
『…なんて、きれい…』
やわらかな春風が花の香りを運んでくる。駆け回りたくなるような野原や輝く海…可愛らしい家々の並ぶ谷が本当に素敵だった。
「はじめて来たのなら丘の上のムーミン一家を訪ねるといいよ」
親切なヘムル族のおじさんに言われた通り、少女はムーミン屋敷を訪ねた。
こんこんこん、
『ごめんください』
「はぁい、あらお客様ね?いらっしゃい」
なんとも優しそうな笑顔で出迎えてくれたこの人が、きっとムーミンママ。
『はじめまして、ナナリーと言います。ムーミン谷へ来たらここを訪ねるといいと伺ったので…』
「そうだったのね。長旅で疲れたでしょう…さあさ、お上がりなさいな」
『お邪魔します』
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