暴彼

□弱虫バニー.1
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泣いてはいけませんよ

シスターたるもの常に慈しみと穏やかな心を持って人々の幸福を祈り続けるのです

貴女にはそれが出来るはずだわ

恐れないで…




『………し、しすたぁ…わたし…』


しんでしまいそうです…っ!!泣


×××××××××××××××××××××

聳え立つような洋館。重い雲が立ち込める暗く不気味な夜にその建物はよく馴染み、「お化け屋敷」と呼ばれるに相応しい様子だ。
そんな今にもおどろおどろしい魑魅魍魎が溢れ出てきそうな重苦しい扉の前に、膝を震わせ青ざめた顔をした一人の少女が立ち竦んでいた。

『ほ、本当に……ここ、なのかな…』

この少女…月宮ミウは今にも泣き出しそうな程怯えながらも、この場から立ち去るわけにはいかなかった。

「いいですか、ミウ。貴女はこれからシスターになる為にとある務めをこなさなくてはなりません」

『お務め…ですか?』

教会の前で捨てられていた少女をここまで育て上げてくれたシスターは、その日少女に静かに告げた。

「貴女にはこれからとある屋敷で務めを果たしていただきます。これは教会からの命であり、貴女が一人前のシスターになる為の試練です」

『…し、試練…』

ふるりと肩を震わせた少女に、シスターは厳しい目を向けた。

「ミウ。本当に臆病な子…しかし何事も恐れてはなりません。慈しみと愛を忘れないで。貴女は誰よりも優しくて強い子だわ」

大丈夫、立派にお務めを果たしていらっしゃい。そう言って送り出してくれたシスターに、少女は不安ながらも頷いた。


…のだが。

『お務め先のお屋敷が「お化け屋敷」だなんて、聞いてない…です』

近所で「お化け屋敷」と呼ばれるこの建物は物音ひとつたたず、人の気配も感じられないのに、夜中に奇妙なことが目撃されたり時には人の悲鳴が聞こえるなどして有名だそうだ。

『シスター稼業に幽霊退治なんて含まれてません…よね?お化け屋敷に用事なんてありませんよね??』

きっと何かの間違いだ、引き返そう。
そう思ったミウだが、もし違ったら…
自分に期待して信じて送り出してくれたシスターに合わせる顔がなかった。

『……こ、声を掛けてみて、何事もなければ…帰ろう』

ミウは涙目で扉をノックした。

とんとんとん

『あの、本日からこちらでお務めさせていただきます…教会の者ですが…っ』

…………。

固く閉ざされた扉の奥からは何も聞こえない。

ホッと安堵したミウはやはり一度帰って確認をしようと踵を返し…固まった。


…ぎぃぃいぃ……


『…ふ、…ぇ?』


…屋敷の扉は音を立てて開いた。…誰の手も触れることなく。



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