暴彼

□弱虫バニー.2
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ことことこと。

シチューの入った鍋が美味しそうな音を立てる。

調理していたユイは、お玉でそれを掬いそっと口に運んだ。

「…うん、美味しい!」

シチューをゆっくりかき混ぜながら意識は少し別の方向へと向く。

(…昨日の女の子、大丈夫だったかな…)

ことの成り行きの途中で気を失ってしまい、ユイは少女がその後どうなったのか知らなかった。

(目が覚めたらもうどこに行ったのかわからなかったし…まさか本当に、死…)

がたん。

「きゃああ!?」

後方から物音が聞こえ、ユイは思わず叫んだ。

『ひえっ!?』

「っ、え?」

叫び声に驚いたらしいもうひとつの声が聞こえ、ユイはぱっと振り返る。

『あ、あの、大丈夫…ですか?』

そこには昨日の少女がおろおろと心配そうに立っていた。

「あなた、昨日の!」

死んでいなかった。その事に安堵する。

『驚かせちゃったのかな…ごめんなさい、美味しそうな匂いがしたから…』

「え?あ…」

ユイは自分の手元を見る。そう言えば久しく自分の料理を美味しそうと言う人物はいなかった。

「…シチュー作ってたの。良かったら一緒に食べない?」

その言葉を聞いて少女の顔はみるみる明るく輝いた。

『ぜひ!』

とてとてと駆け寄って来て人懐っこそうな笑顔を向ける少女に、ユイも頬が緩んだ。

「私、小森ユイ。あなたはたしか…」

『えと、月宮ミウ、です。教会のお務めでこちらに居候させていただくことになりました』

「教会…」

父の顔が浮かんだ。自分は親戚と聞かされてよくわからぬうちにこのヴァンパイアだらけの屋敷へ足を運んだ。しかしこの少女は「お務め」があるらしい。

「ミウちゃんて、もしかしてシスターなの?」

『あ、いえ!私はまだまだ見習いで…シスターだなんて認めてもらえません』

恐れ多い!という顔で否定するミウに、くすりと笑みがこぼれた。

(なんだか、可愛い子だなぁ)

昨日は怯えきった顔しか見られなかったが、こうして気楽に話をすると同年代の友だちが遊びに来たという感覚だった。

「私もこの家に居候してるから、よかったら仲良くしてね」

『な、仲良くしてくれるんですか?』

「もちろん!それから、敬語もなし!」

にっこり笑うユイに、ミウもつられてふにゃっと笑った。

『はい!…あ、…うん!よろしくね』

和気あいあいとした空気が流れた直後、キッチンの扉がばたんっと開いた。


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