薄桜鬼
□甘い嘘
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島原。
夜になると酔っ払いの笑い声などが耐えないそこに、私はいた。いろいろあって最近ここで働き始めた私は、酔っ払いの笑い声を好きになれなかった。まあ好きな人なんていないだろうけど。聞こえるのは酔っ払いの笑い声笑い声笑い声。それだけだ。だから私はここに来るのは酔っ払いだけだと思っていた。…こないだまでは。
「おい、名前」
低い声で名前を呼ばれたから振り向いてみれば、綺麗な金髪の男性が空の杯を私に差し出していた。
「すんまへん、ぼーっとしてました」
なれない郭言葉を使い、目の前の男性と話す。
「お前は本当に、美しいな」
顎をクイっと持ち上げて、藪から棒にそう言う男性に
「風間はんは世辞が上手どすなぁ」
と笑う。ふんっ、と鼻で笑い、世辞などではない。と言う風間さん。彼がお世辞なんか言うはずないのに、毎回お世辞が上手、と笑う。そうしたら、お世辞じゃない、と言ってくれるから。
「でも、風間はんの一番は…えっと」
君菊さんと若い女の子がわあ、綺麗。と言っていた女の子の名前を必死で思い出す。なぜなら、前その女の子に風間さんが迫ってるところを見たからだ。
「千鶴はんやろ?」
思い出した名前を言えば、風間さんはいつもの余裕そうな笑みを浮かべた。
「あいつは俺のだからな」
その言葉で私は目の前が真っ暗になった気がした。私はどこかで、あいつも美しいが…と言ってくれることを期待していたのかもしれない。
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