薄桜鬼

□残酷なあなたは
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放課後。私はいつものように大好きな薫くんにラブアピールする。
「薫くーん!」
「またお前か。いい加減にしろよ」
「薫くーん!」
「…何だよ」
「べろべろばー」
「…」
踵をかえしてスタスタ歩いていってしまう薫くん。私笑わせようと頑張っている。でも──
「うざい」「またお前か」「うるさい」「あっち行け」
薫くんは言葉のナイフを扱う達人のようで。私は毎日そのナイフをよけて…というか刺さったことに気づかないふりをして薫くんを笑わせようと頑張っていた。そんなある日──…
「男の子が退かれたぞ!」「早く救急車!」「女の子を庇って…!」「あの制服…薄桜よね?可哀想に…まだ若いのに」
周りの声は全てノイズとなり、シャットアウトした。
近くの花壇に勢いよくあたった背中と、地面に叩きつけられた手のひらの痛さで私はハッとした。立ち上がって歩こうにも、体が動かない。なんとか近くの物に捕まって立ち上がり、思い足を引きずって、人溜まりに向かう。薫くんを探すために。人溜まりの中に居るよね…?そう信じて人溜まりの中心に行ったら、薫くんが居た。真っ赤な薫くんが、倒れてた。白かったカッターシャツは真っ赤になって、破れてるのかさえの区別もつかない。
「薫、くん…?ねぇ、薫くん」
返事をしない薫くんに向かって叫ぶ私。そのとき
「うる、さいな…」
大好きな薫くんの声が帰ってきた。
「ねえ、薫くん、好きだよ。薫くん、好きだよ、大好きだよ」
無意識に出たその言葉は別れを告げているようで嫌になった。
ほら、いつものように俺は嫌いだよって言ってよ。
いつもショックを受ける言葉だけど、薫くんが生きててくれるなら嫌いでもなんでもいい。そう思っていたら





「…知ってるよ。好きな奴の気持ちくらい」
と返ってきた言葉はあまりにも優しい言葉だった。
「お前は泣き顔似合わないよ」
いつもみたいに笑え、と言って微笑む薫くん。いつの間にか私の頬にあった手は、スルリと私の頬を伝って地面に落ちた。その手がうつる視界の端で、薫くんが目を閉じた。

残酷なあなたは
(最後の最後に、私に笑顔をくれました)
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