【電波】

□『雨とピアノ』
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私は迫る夏に向けて、今日からダイエットをすることにした。大学からの帰路、家に一番近駅から一つ手前の駅で降りる。なんて、中年サラリーマンのようだけど…

◇◆◇

いつもの駅より一つ手前。駅を出て私は深呼吸をした。
「よし、がんばるぞ。」
今日は曇りであまり暑くない。歩くのにはちょうどイイ感じだ。
そういえば、隣の駅なのになかなか来たことなかったなあ。

おしゃれな花屋さん、猫が集まる古本屋、昔ながらの床屋さん…
初めて見るものがたくさんある。
なんだか、探検みたいで楽しい。こういうのもいいなあ、と思っていたら…
いきなり空がピカッと光り、ゴロゴロと大きな音がした。
「雷…?」
私は急いで走り出した。
けれど、雨の方が早かった。あっという間に雨に降られてしまった。
「あぁ、もう。最悪。」
近くに喫茶店と書いた看板を見つけ、私は駆け込んだ。


◇◆◇


カランカラン…
「いらっしゃいませ。」
30代後半くらいで優しそうなおじさんがカウンターから声をかけてくれた。
小さくレトロなその喫茶店に入って目を引いたのはピアノ。 店のすみにおいてあったピアノはピカピカで新品の様だった。

「はい、どうぞ。」入り口でベタベタに濡れて突っ立っていた私におじさんはタオルを持ってきてくれた。
「あ、ありがとうございます。」
そうして私は窓際の席に案内された。


濡れたところを拭きながら店内を見回す。
煙を燻らせながらコーヒーを飲むおじいさん。スポーツ新聞を読むおじさん。話の途切れないおばさんたち。どうやらお年寄りの憩いの場みたいだ。
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