【電波】

□『雨とピアノ』
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「ご注文はお決まりですか?」
おじさんの低い声に私は、はっとする。
「あ、あの。紅茶ありますか?」
コーヒーが苦手な私はメニューを見ずにそう言った。
「紅茶ね。かしこまりました」
おじさんがカウンターに向かう。
何気なく回りを見渡してみるとタバコのおじいさんもスポーツ新聞のおじさんもお喋りなおばさんたちもピアノの方を見ていた。
なにかあるのかな。

「お待たせしました。」 にっこり微笑みながらおじさんは私の前に紅茶を運んでくれた。
「あの、これ…」
おじさんはロールケーキを私の前に置いた。
「サービス、サービス」
人差し指を口にあてておじさんは笑った。
優しい…
「それと、生姜平気?
大丈夫だったら好きな量入れてね。風邪引かないようにからだ暖めなきゃ。」
そう言っておじさんは生姜の乗った小皿を紅茶の横に置いてくれた。
メチャクチャ優しい…
「それでは、ごゆっくり。」
おじさんはカウンターへ向かわずに、ピアノの方へ歩いていった。
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