short

□拍手小説集
2ページ/10ページ

誰にも見せない触らせない





俺とムサシは一緒に居るのがアタリマエ。
昔からコンビを組んでいるせいか、ずっとそう思い続けていた。


そんな俺達も、“相棒”から“恋人”へつい最近ランクアップした。



「…アタシ、コジロウの事、好きよ。」



彼女がそう言ってくれた時、嬉しくてたまらなかった。

あぁ…俺はこいつを…ムサシを、命をかけて守りたい。
そう考えながら、2人で優しく笑いあった。


しかし“恋人”になり、2人で過ごす時間が増えると共に色んな感情が胸を支配するようになった。






それは、馬鹿らしい程のドクセンヨク。






「コジロウ、どうしたの…?全然食べてないじゃない。」


彼女と来たレストランでも、俺はずっと警戒していた。




…彼女を、誰の目にも触れさせたくない。




そんな馬鹿みたいな感情がずっと、ずっと、ずっと俺の心を惑わせていた。


「ちょっと食欲なくてさ。
ムサシこれ全部食べていいぞ。」


「ほんと?…でもちょっとは食べないとダメよ。
ほら、あーんして?」


俺の気持ちなど知る由もない彼女が、照れながら自分の使っていたスプーンを差し出す。

そんな1つ1つの仕草や行動にドキドキしてしまう自分が情けない。



「ん。美味い。」

「良かった。まだ食べる?」

「ムサシが食べさせてくれるなら。」


「…もう。しょうがないわね。」



そう言いながら彼女は再び俺の目の前にある料理をすくって食べさせてくれる。

彼女の使っていたスプーンから伝わってきた熱が、俺を狂わせた。



今すぐ彼女に飛びついてしまいたい。
そんな衝動をなんとか押し殺し、店を出る為に席を立つ。



「2000円になります。」

「あっ、はい。ちょっと待ってください。」


スラっとした若い男の店員。

ムサシが鞄の中から財布を探している間、その店員がムサシに目を向けているのが気に入らなかった。


俺は素早く彼女の前に出る。



「俺が全部払うから。
ムサシは先に外で待っててくれ。」

「え…で、でも…。」

「いいから。頼む。」

「…わかったわ。
お金、後で半分ちゃんと返すから。」



そう言い彼女は静かに店を後にした。

俺は自分の財布から丁度2000円を取り出しカウンターに置き、店員に目も向けず店を出る。




「あ…ごめんね…?コジロウ。」

「大丈夫。返さなくてもいいから。」



店の外の、備え付けられている自動販売機の前に彼女が立っていた。



「ありがとう。
じゃあ、これからどうする?何処か行く?」

「折角だし、俺はムサシと2人っきりで過ごしたいな。2人になれる所に行かないか…?」






なんて。

本当は、これ以上ムサシを他の奴の目に触れさせない為。




見せたくない。
触らせたくない。





こんな黒い感情を、いつから持つようになってしまったんだろうか。


「ん…じゃ、ホテル…行こ…?」


彼女が少しだけ頬を染めながら、俺の服の裾を掴んで言った。




俺の全身が途端に熱くなる。




「そうだな。」


彼女の手に指を絡め、夜の街を歩き出した。








ホテルに着き、部屋のドアを閉め鍵をかける。

真ん中の大きなダブルベッドに2人揃って腰掛けた。




「……ねぇ、コジロウ…大好き。」

「ふふ、俺もだよ。好きすぎておかしくなりそうだ…。」


正面から彼女を優しく抱きしめると、ふわっと髪から漂うシャンプーの匂い。


「今日は、いっぱい甘えさせてね…?」

「あぁ…。」


そしてゆっくりと、彼女に口付けた。



今だけは、今だけは、ムサシを独り占め出来る。


そんな事をぼんやり考えながら、静かに目を閉じた。






酔わずに言って 愛の言葉

幸福という穴ぼこにあなたと堕ちたい






お題提供

by Cubus 様
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ