ぬら孫novel

□夕日影に滲む
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彼が自分に触れる
それは優しく優しく、慈しむように守るように
髪をすいて頭を撫でて目が合えば軽く微笑んで

壊れ物を扱う様に











最近、日没が早く感じる
夜が駆け足で迫ってくるような
そんな季節になった

今の時期、着物一枚では少々冷えるけれど
リクオはそれも構わずに縁側に座り込み沈みかかった夕日を眺めていた

連なった山々に、その間に身を隠すように沈んでいく夕日の光が
キラキラと線のように長く伸びて
普段霧深いこの山の澄んだ空気に溶けて綺麗だった



(牛鬼は・・・・)



(何時もこの景色を見てるのかな)



この美しいどこか懐かしいような、切なくなる景色を

まだ沈みきらない橙色を眺めて息を吐いた



「リクオ・・・・」



後ろから声をかけられて振り返る
声の主は予想した通りの人物だった



「牛鬼」



直ぐ近くに立っている彼を見上げれば
ほんの少しだけ困ったような顔と目があって



「なぁに?」



どうしたの、と聞けば
彼はまた一歩、僕に近づく
キシリ、キシリ。微かに床が音をたてた



「此処は冷える、体に障ります」



その言葉と一緒にフワリとかけられた羽織は
それまで彼が肩にかけていた物で
自分には少し大きく、でも暖かかった



「うん・・・・」



彼の優しさに自然に頬が緩んだ
くしゃりと頭を撫でられる
もうそんな小さい子供でも無いけど、何故か彼が幸せそうな顔をしていたから嬉しくて



「さぁ、部屋に入りましょう」



そう言って伸ばされた手を取って
立ち上がり自分の前をゆっくり歩く人に続いた


彼が自分に触れる
それは優しく優しく、慈しむように守るように
髪をすいて頭を撫でて目が合えば軽く微笑んで

壊れ物を扱う様に
まるで、それは・・・・







(彼のそばは暖かい)



(彼のそばは優しいから)



もう一度見た山の間の夕日はもう完全に姿を隠していた
薄ぼんやりと微かに橙色に染まった空が
黒く染まるのはもうすぐだろう

リクオは繋がれた牛鬼の手をクイッと引けば
彼は立ち止まってこちらを振り向いた



「今度は二人で夕日が見たいな」



一瞬だけ彼が珍しく照れたように笑って
短くはい、と答えてくれた




多分、今度は分厚い羽織を着させられて
クシャミでもすれば部屋に戻されそうになるんだろうけど

それでも夕日に照らされて延びる影は二つならんでいるだろう













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