NOVEL(etc)

□誘惑アメジスト
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コトリ、コツリ
静かな部屋にはただ駒を盤上で動かす音だけが響いていた


窓際に置かれた小さめのテーブルの上には白と黒の駒が並べられ
窓から柔らかな光が差し込むそこで
黒と金の髪の二人が向き合っている
金髪の青年が白い駒を手に静かに言い放った



「チェック」



コツリ、と音を立てて白い駒が盤上に置かれるのを見て
向かいに座る黒髪の少年が肩をすくめた



「やはり兄上には勝てませんね」



ふぅ、と息を吐いて
ルルーシュは盤上から目線を上げた
白く美しい指が自信の黒い駒を撫でる


残念そうな口振りとは裏腹に、シュナイゼルを写すその瞳は好戦的な色を帯びていて
皇族の中で誰よりも濃い、その紫に自分だけが写る
シュナイゼルはこの時間が何よりも好きだった



「負けてしまってはルルーシュに相手にされなくなってしまうだろう?」



冗談混じりにそう溢せば
ルルーシュはいっそう笑みを深めた
駒を弄んでいた指が、口元を隠す
クスクスと笑い声を溢す唇に添えられる白いスラリとした指を目が追ってしまう



「兄上には似合わない科白ですね」



「そうかもしれないね」



確かにらしくないのかもしれない



「1つのモノにこんなに執着するなんて想像もしてなかったよ」



そう言って目の前の黒髪に手を伸ばした
サラサラと指をすり抜ける髪の感触を楽しむように、何度も指を通す


ルルーシュは優しく自分に触れるシュナイゼルの手をただ享受していた

目を細めてじっとしているその仕草がまるで猫のようで
緩む口元を自覚はしてはいたけれど
どうしようもない、と割り切った



(この気紛れな美しい猫が離れないように)


(猫の興味がチェスの勝利なら、私は誰にもソレを譲らないでいよう)



「兄上は意外と独占欲が高くていらっしゃる」



囁く様に告げられたその言葉に
そうだよ、と笑ってみせた



(私の元に繋いでおいてしまいたいけれど
そんなことをすれば逃げていってしまうだろうから)


(今はまだ、この位置で我慢しよう)











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