NOVEL(etc)

□03 Forget me not
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カツカツ、と足音を響かせて彼は歩み寄ってきた
彼のその手がヘルメットを外す

ふわり、とそこから現れたブラウンの髪と深緑の瞳に
覚悟も予感もしていた筈なのに
ただただ固まるしかできなかった

カチャ、と音がして我に返れば
彼はその黒い銃口を向けて笑っていた



「うちの妹が邪魔したな」



その銃の標準は正確にこちらに合わされていた
いつも背中を見守ってくれていた深緑の瞳は
今は拳銃越に、真っ正面からこちらを見据えていた



(何故、)



喉がカラカラに乾いて声が出せない
声が出せたとしても、何と声をかければいいのか、どうすれば良いのか分からない



(何故、お前がそこに居る)



ただ、拳銃を構える彼を見つめていた



「にーに!」



沈黙を破ったのは赤毛の少女だった
彼女は彼に向かって走り出すと、勢いよく彼の胸に飛び込んだ



「ネーナ、いきなりCBに行くなんて言って居なくなるから心配したんだぞ?」



それでもしっかりと彼女を抱き留めた彼は
窘めるような物言いではあったけれど
優しい声色でネーナに語りかけた



(違う、違う違う!)



優しい眼差しも、声も、その腕も
構えられたら銃が守る先に居るのは



(俺だった、俺達だったのに!)



一旦は下げられたら銃口がまたこちらに向けられたら
片手は甘えるように彼に抱きつく偽りの妹の頭をなでて
彼は一歩も動けない俺たちを一瞥する



「そっちが仕掛けてこなけりゃ撃たねぇさ、そんじゃ、邪魔したな」



そう言って彼は興味なさげに俺たちに背中を向けた




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Forget me not=勿忘草
私を忘れないで






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